前回は、相続税対策が必要か否かを決めるポイントを説明しました。今回は、相続税対策が終わり、納税した後でも請求されるケースがある「譲渡所得税」への対応について見ていきます。

相続税をゼロにしても多額の「譲渡所得税」がかかる!?

法人などを活用し、相続税対策をきちんとやっておけば、相続税はゼロ、もしくはゼロに近い状態にすることが可能です。しかし、注意しなくてはいけないのは、相続税の申告が終わって納税した後にも、税金がかかってくるケースがあるということです。

 

例えば、相続税を支払うために相続財産を売却した場合には「譲渡所得税」がかかってきます。相続税をゼロに近い状態にしたにもかかわらず、譲渡所得税でどーんと課税されたのでは意味がありません。

 

ちなみに、譲渡所得税は、売却額から購入価格(不明なものは売却額の5%)と手数料などの譲渡費用を差し引いた「売却益」に対して課税されます。先祖代々から続いているような土地に住んでいる人は、取得費が5%しか認められませんから、仮に相続財産を売却して1億円で売れた場合、売却益は単純に計算して、

 

■1億円-500万円(5%)=9500万円

 

譲渡所得税の税率は長期譲渡所得の場合一律20%(住民税を含む)ですから、譲渡費用を考慮に入れないと、

 

■9500万円×20%=1900万円

 

となり、1900万円もの譲渡所得税が課税されてしまいます。もっとも、こうした譲渡所得税を何とか圧縮する方法がいくつかあります。

譲渡所得税を圧縮する「3つの方法」とは?

簡単に紹介すると次のような方法が考えられます。

 

●居住用財産の譲渡所得税特別控除

 

まずは「居住していた不動産」を売却した場合には、譲渡益から3000万円までの特別控除が受けられます。また、税率も本来20%のものが14%になる特例もあります。

 

そういう意味では、親と同居していて、親から土地、家屋を相続したケースで、相続後に売却して別の収益物件を購入したいと考えているような人は、自分も住んでいる自宅を売却して、譲渡所得税を安くすることも可能です。

 

ただし、法人化して土地、家屋も法人名義にしてしまった後では、この方法は使えません。また、小規模宅地の評価減の特定居住用宅地等に該当する場合には、相続税の申告期限まで保有居住し続けることが要件ですので注意が必要です。

 

●居住用財産の買い換え特例

 

居住用財産を売却して買い換えるときに使える特例です。一定の条件を満たすことで、新居の買い換えに充てられた売却代金を譲渡益から差し引くことができるもので、この方法も大きく税負担を引き下げることが可能です。

 

●相続税の取得費加算の特例

 

相続した財産を売却する予定の人に、相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却すると、納めた相続税の一部を売却の経費(取得費)として認めてくれる制度です。相続した物件をいずれは売却してしまいたいという人は、この特例を使うことで譲渡所得税を大きく減らすことが可能になります。この特例は、不動産以外の「株式」についても適用されるために大きな武器になります。

 

例えば、相続財産が1億円で、そのうち株式2000万円、現金3000万円、土地が5000万円だったとしましょう。かかった相続税が約2000万円だった場合、株式の2000万円を売却すると、相続財産の20%を売却したことになるために、相続税2000万円の20%である400万円を、取得費から差し引くことができるわけです。

 

自分が設立した法人の株式も、その価格が適正であれば、この制度を活用することができるはずです。

 

ちなみに、売却資産が土地の場合にはさらに有利になっており、土地の一部を売っただけでも、資産全体に占める土地の割合、この場合は50%分が全額適用できます。相続税の50%というと1000万円ですから、この範囲内であれば譲渡所得税はゼロで売却できることになります。

 

いずれにしても、相続がすんでからも、法人を運営していく上で数多くの行程が待っています。不動産ビジネスとして、きちんと処理していくことが大切です。

本連載は、2013年8月2日刊行の書籍『相続税は不動産投資と法人化で減らす』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税は不動産投資と法人化で減らす

相続税は不動産投資と法人化で減らす

成田 仁,富田 隆史

幻冬舎メディアコンサルティング

従来より相続税対策として考えられてきた、アパートや小規模ビルなどの建設。しかし、それこそがリスクをもたらしているかもしれないとした…。 本書は、持て余している土地を収益性の良い賃貸物件に買い替える不動産投資の最…

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