「返済できないなら、工場の機械全部もらう」「全部はダメ!」譲渡担保〈被担保債権の範囲〉の悩ましい問題

「返済できないなら、工場の機械全部もらう」「全部はダメ!」譲渡担保〈被担保債権の範囲〉の悩ましい問題
(※写真はイメージです/PIXTA)

会社間の取引において、貸付金債権や売掛金債権の支払いを担保するために、「動産譲渡担保」等の方法を取る必要があります。当然「譲渡担保契約」を締結し、被担保債権を設定しますが、時にその内容があいまいで、トラブルになることがあります。日本橋中央法律事務所の山口明弁護士が法的目線から平易に解説します。

譲渡担保契約において、必ず設定される「被担保債権」

会社の取引にあたり、債権者が債務者へ貸付金債権や売掛金債権の支払いを担保する手段として、「動産譲渡担保」「債権譲渡担保」といった方法をとることがあります。

 

動産譲渡担保とは、債務者の所有する動産(工場の機械や車両など)を債務者の手元に置いたまま、債権者に所有権を移転させて確保する方法です。


債権譲渡担保とは、取引先が保有する債権を担保に取る手法です。それにより、万一取引先から支払いがなされなかった場合、担保とした取引先の債権を直接回収することで、本来取引先から支払われるべき代金の代わりとします。

 

動産譲渡担保・債権譲渡担保を設定する場合には、譲渡担保契約において「被担保債権」が必ず設定されます。

 

しかし、この被担保債権について「抽象的な文言のみ」で記載されているケースが散見されます。その場合、被担保債権の範囲、つまり「どの債権までが被担保債権としての対象に含まれるのか」が争いになることがあるのです。

 

しかし、この点については明確な法律の定めがあるわけではなく、また、議論としても十分に尽くされていないのが実情です。

 

「債権譲渡担保権設定契約書(参考例)解説書」の2頁によれば、

 

「『担保権者(乙)が設定者(甲)に対して現在及び将来有する一切の債権』といった包括的な被担保債権の定めによる契約は有効性に議論があることに留意する必要がある。」

 

とされており、また、

 

「純粋の包括的な被担保債権(つまり全債権)を認めるべきかは、議論があろう。柔軟に考えたいが、根抵当の制度があるから、これに準じることが適正であろう。」

 

(竹内康二「倒産実体法の契約処理」253頁)

 

といった記載がある程度です。

不動産には「根抵当」の制度があるのだから…

とはいえ、「不動産における根抵当の制度」がある以上、譲渡担保もその法理が一定程度は参考になるものと推察されます。

 

この点について、最高裁平成5年1月19日判決は、被担保債権の範囲を「信用金庫取引による債権」として、「設定された根抵当権の被担保債権には、信用金庫の根抵当債務者に対する保証債務も含まれる」と判示しました。

 

なお、この判決の中で、

 

「信用金庫取引とは、一般に、法定された信用金庫の業務に関する取引を意味するもので、根抵当権設定契約において合意された『信用金庫取引』の意味をこれと異なる趣旨に解すべき理由はなく、信用金庫と根抵当債務者との間の取引により生じた債権は、当該取引が信用金庫の業務に関連してされたものと認められる限り、全て当該根抵当権によって担保されるというべきところ、信用金庫が債権者として根抵当債務者と保証契約を締結することは、信用金庫法53条3項に規定する『当該業務に付随する…その他の業務』に当たるものと解され、他に、信用金庫の保証債権を根抵当権の被担保債権から除外しなければならない格別の理由も認められない」

 

と判示しています。

 

この判例における調査官解説(26-27頁)によれば、

 

「右根抵当立法は…一切の取引上の債権を担保するという取引包括根抵当も否定し、いわばその中間をとって、債務者との取引の種類によって被担保債権の範囲を限定することを要するとしたものである。したがって、この『一定ノ種類ノ取引』による限定は、被担保債権の具体的範囲を決する客観的基準として第三者に対しても明確なものでなければならない。」

 

としつつ、「商社取引」という指定を不可とした理由として、

 

「商社の場合には、銀行などの場合と異なり、その業務範囲が法定されているわけではなく、現実にもその内容は複雑多岐にわたっているのが実情である。このような事情を考えると、商社取引という取引の種類の指定によって、債権の範囲を画することは困難である。」

 

などと説明しています。

 

したがって、銀行などのように法律に業務範囲が法定されているものについては、「銀行取引」といった記載をした場合、客観的基準として第三者に対しても明確であると評価しやすいものの、商社や一般の事業会社などにおいては、その業務範囲が法定されているわけではないことから、抽象的な文言で被担保債権を記載した場合は、その有効性や対象となる被担保債権について疑義が生じる可能性があるということです。この点については、十分な注意が必要だといえます。

 

 

山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士

 

 

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    ※本記事は、日本橋中央法律事務所の「note」より転載・再編集したものです。

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