「弁償じゃダメ、元通りに戻して!」不法行為による財物の毀損〈原状回復〉の請求はどこまで可能か【弁護士が解説】

「弁償じゃダメ、元通りに戻して!」不法行為による財物の毀損〈原状回復〉の請求はどこまで可能か【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

大切にしていた肉親の形見、思い入れある車…。不法行為によって破壊されてしまったら、その品の「客観的価値」と同等の金銭を支払われたところで、気持ち収まらないかもしれません。このような場合、被害者は「原状回復」をどこまで求めることができるのでしょうか。日本橋中央法律事務所の山口明弁護士が法的目線から平易に解説します。

不法行為による損害賠償は、原則「金銭賠償」となる

加害者から不法行為(民法709条)を受けたことで、被害者が大切にしていた財物が毀損した場合、「金銭的な賠償を受けても意味がない」と主張し、毀損した財物の原状回復を求めることはできるのでしょうか。

 

不法行為を受けた場合の損害賠償の方法としては、「金銭賠償」と「原状回復」が考えられますが、民法722条1項は、「不法行為による損害賠償については、原則として金銭賠償の方法による」こととしています。

 

金銭賠償の方法を採用した点について、

 

「本来、損害賠償は、完全な損失填補ということからすれば、被害者にとって原状回復がもっとも望ましいが、原状回復としての『賠償ノ方法ハ徒二事物ノ混雑ヲ来タシ却テ不便』であって、『損害ヲ測定スルニ最モ便利ナル金銭ニ依リテ其賠償ヲ定ムル』(民法修正案理由書416条、なお721条参照)ことが、現在の商品社会においては合理的であり、立法論的にも一般に支持されている。」

 

(注釈民法(19)344頁)

 

また、

 

「諸外国の立法例では、原状回復の方法を認めるものも少なくない。しかし、原状回復に多額の費用を要するときは、加害者に酷な結果になり、また、被害者も金銭賠償を便利とするのがふつうである。今日のように、商品の等価交換を基礎とし、金銭的価値を中心として動いている社会においては、やはり、金銭的損害が通常生ずべき損害だともいえるわけであり、金銭賠償が原則となる。」

 

加藤一郎「不法行為法〔増補版〕」215頁

 

などと説明されています。

 

そのため、交通事故で思い入れのある車両が壊れた場合であっても、交換価値を上回る補修費用の賠償は認められません。この点については、

 

「事故車両の事故当時の車両価格及び買替諸費用が賠償されれば、被害者は同一の車両を手に入れることができ、その結果、被害を受ける前の経済状態が回復されるのであるから、被害者の救済として必要かつ十分であり、これ以上の賠償を認めることは、被害者が事故によって利得する結果となり、許されないからである。」

 

佐久間邦夫、八木一洋編「交通損害関係訴訟」229頁

 

などと説明されています。

例外的に「原状回復」の方法を認めている場合

もっとも、法律で例外的に原状回復の方法によることを認めている場合もあります。名誉毀損の場合には、名誉を回復するのに適当な処分(例えば、新聞への謝罪広告など)が認められることがあります(民法723条)。また、不正競争を行って営業上の信用を害した者に対しては、営業上の信用を回復するのに必要な措置が認められることがあります(不正競争防止法14条)。また、鉱業法111条2項は、

 

「賠償金額に比して著しく多額の費用を要しないで原状の回復をすることができるときは、被害者は、原状の回復を請求することができる。」

 

と規定しており、原状回復請求を明記するものもあります。

 

 

山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士

 

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※本記事は、日本橋中央法律事務所の「note」より転載・再編集したものです。

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