自分にはどんな無意識が働いているのか?
■無意識を理解しようとする学問、フロイトの「精神分析」
このように、心のなかには意識的な領域と無意識的な領域があり、誰もがある種の無意識的な影響のなかで生きています。ですから人の言動にはなにも意味がないように見えたり感じられたりしても、隠された意味がある可能性があるのです。それは無意識を探求することで見えてくる部分があると、フロイトは考えました。もちろん完全には理解できませんが、自分にどんな無意識が働いているのかを理解しようとする試みが「精神分析」です。
精神分析において「無意識」というのは、心の仕組みや働きを解明しようとするうえで基本となる非常に重要な概念です。フロイトは、患者の治療体験を通して無意識の存在を確信し、それを探求していく過程でさまざまな心理的な現象を目の当たりにしました。
その一つが「抑圧」です。人間にはさまざまな欲求がありますが、社会的に生きていくためには本能のままの欲求は受け入れられない場合も多くあります。例えば幼児性愛といわれるような幼児期の性的な欲求は多くの場合異性の親に向けられることが知られていますが、これは大人から禁止されたり、たしなめられたり、見ないことにされたりすることによっていけないことなんだと無意識に感じ、それを抑圧するようになります。幼児の性愛的な欲求は大人が忌み嫌い抑えつけようとすることで決して許されない絶対的な脅威になります。ですから意識にのぼらないほどまでに完全に無意識に追いやられるのです。
つまり、許されない危険な欲求を無意識の領域に押し込むことで、安心感を得て日常生活をスムーズに送るための予防策になっているわけです。
ドイツ語の動詞verdrangen、名詞Verdrangung という語を日本では「抑圧する」「抑圧」と訳していますが、verdrangen は元来「排除する」という意味です。つまり、意識の中から外へと排除するわけです。重要なことは、「抑圧は意識的になされるものではなく、無意識のうちに、つまり本人の知らない間になされる」ということです。
こうして「忘れた」こと、すなわち抑圧された感情は無意識のなかにたまっていきます。
そして、そのままじっとしていてくれれば良いのですが、隙あらば抑圧から解放されて自らを表現しようとするのです。
そのうえ、そのままの形で現れる、つまり単純に忘れていたことを思い出すのではなく、多くの場合で症状という形になって戻ってきます。そこで、その症状から原因となったもの、つまり抑圧されたものを探り当て、それを意識化して思い出すことによって症状は消えると、当初フロイトは考えたわけです。幼児性愛でいえば、幼児的な性的欲求を異性の親に向けたことがあると大人になってから思い出したとしても、脅威にはならないということです。
ところが、実際には意識化に成功したように見えても症状は悪化したり、本人が意識化するのを拒んだりするケースがあることに気づきました。これによって、心のなかに意識化を妨げようとする無意識の力が働いており、それは患者自身が意識することのできない、心の深い部分に閉じ込められた無意識であると考えたのです。
そのように抑圧された無意識には、「あいつを絶対に許さない。いためつけてやる! 殺してやりたい!」といった反社会的な欲求も含まれています。それを意識化することは、欲求のまま暴力に訴えるなど犯罪行動をすることにもなりかねません。そういったものに対する根元的な恐怖を患者は無意識に感じているかのように見えることがありました。
こうしてフロイトは、通常の外界に開かれた意識を「自我」と呼び、自我を監視して良心的な自我へと導こうとする力を「超自我」、無意識に内在する欲求も含めて人のあらゆる原始的な欲求を「イド」と呼ぶようになったのです。実体のつかめない心を理解するために分かりやすくモデル化し、人間をより深く知る学問として精神分析という分野を創始しました。
庄司 剛
北参道こころの診療所 院長
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