生きるうえで重要な「自分自身の評価に関する感情」
自尊感情、自尊心は、自分を大切に思うなど自分自身の評価に関する感情のことをいいます。自分を大切に思えないと自己評価も低くなり、自分を信じることができないために「どうせ失敗する」とか「どうせ嫌われているから」などと、なにごとも否定的なとらえ方をするようになります。
こうした思考が、人間関係や物事のとらえ方、目標達成などあらゆることに影響してきますので、自尊感情は生きるうえでとても大切な感情です。
子どものころの体験、特に「親の言動」が大きく影響
自尊感情の形成には、やはり子どものころの体験が大きく影響しています。特に子どもにとって親は絶対的な存在ですから、例えば「ほかの子はできるのに、どうしてあなたはできないの?」とか「90点で満足してはいけない。100点を取りなさい」などと親に褒められたり認められたりした経験が少なかったり、親の言動に否定的な要素が強ければ、子どもは「自分は無力だ」「自分は頭が悪いからダメなんだ」と思い込んでいきます。
ほかにも、親とのコミュニケーションやスキンシップが極端に少ないと、親の愛情を実感できないために、子どもは「自分はいらない子」と不安を抱き、安心感を得られず自信ももてなくなります。
一方、過保護や過干渉も「自己否定する子」を生む
また、見た目は子どもに深い愛情を注いでいるように思われる過保護や過干渉の場合も、子どもの自己評価を低くしてしまうことがあります。
過保護、過干渉の親は先回りして子ども自身でやるべきことをやってしまいます。これは親が自分の意見を押し付けることになるばかりでなく、ゆくゆくは子どもに対して、「あなたにはできないから、私(母親、父親)がやってあげている」というメッセージになります。つまり、結果的に親が子どもを信じられず否定していることになるので、子どもは自信を失い、「今のままではいけない」「これでは親に愛してもらえない」と自分を否定するようになります。
これらは子どもに対する親の不安を表しているわけですが、それは親自身が自分に自信がないところからきているのかもしれません。親自身に自信がなく、自己評価が低い人だと、自分の子どもの育て方についても信頼できません。ある意味親が子どもに自分の不安を投影するわけです。そうすると子どもも自尊感情が育まれにくくなるという世代間の負の連鎖のようなことが起こってしまうわけです。
自尊感情の形成に、実際の能力や才能などは関係ない
自尊感情は幼少期を通して両親をはじめとした周囲の人たちのポジティブな反応によって発達します。それはその人の実際の能力や才能、見た目とは必ずしも関係がありません。身体的あるいは知的能力が平均より低かったとしても、もし両親がその子どもの存在を純粋に喜んでくれれば、その子どもの自尊感情は発達し向上することができます。
しかしここで私が言っているのは、ただ単に親が子どもを褒めればいいということではありません。親が心から子どもを信頼しているかどうかという話なのです。もし親が子どもを心から信じていれば、たとえテストの点数がほかの子に比べて低かったとしても、例えば「算数は苦手でも、心根が優しいからそれで十分」とか「音楽ができるから、こっちを頑張れば良い」というふうに、その子独特のほかにはない価値というものを見出すことができます。
また評価が低いのは逆に期待値が高いことの裏返しでもあります。親の期待値が高ければなかなかその期待値に到達することができず、いつまでたっても認められないということになります。その価値観を取り込んで育った子どもも自分に対する要求水準が高く、自己評価が低くなってしまうかもしれません。つまり親の子どもに対する期待値が高いということと、信じているということはまったく別物どころか正反対のことといえます。
自分に対する「高過ぎる期待」を手放せるか
しかし特に自分に対する期待値の高さというものはなかなか手放すことが難しいものです。自分にはもっとできるはずという期待を裏切り、現状これが限界であるということを受け入れるのは、深い落胆と痛みをともないます。そして自分自身の価値がすべて損なわれてしまうのではないかと強い不安を感じてしまうのです。
しかしもしその自分自身に対する高過ぎる期待を手放すことができたとき、自分の家族、友人、同僚を含む周囲の人たちや日々の生活がそれでも変わらずに存在し、ともに生き続けてくれることに気づけるはずです。さらにうまくいけば、そんな平凡であるけれど現実的な生活に違った価値を見つけることができるかもしれません。
庄司 剛
北参道こころの診療所 院長
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