「“なぜか間違えてしまった”現象」が起こるワケ
言い間違いや書き間違いなどといった失敗は誰にでも経験があると思います。
例えば、「お世話になっております」と言うところを、「お世話をしております」と言ってしまったり、「今夜、飲みに行かない?」と誘われて、「行かない、あっ行く!」と言い直したりします。しかも、スピーチなどの大事な場面に限って、「失敗してはいけない」と意識していたにもかかわらず、なぜか間違えてしまいます。
このような現象を「失策行為」といいます。まるで意図したかのような、意味があるような間違いをしてしまうことがあるのは「自分が意識していないところでなにか力が働いている」と想定しないとうまく説明できません。
そこで精神分析を創始したフロイトは、「意識」に対して「無意識」という領域が心のなかにはあると考えました。この無意識という概念は多くの人に受け入れられ、今では心の問題を扱うにあたって重要な共通の認識となっています。精神分析において無意識の領域は心を解き明かすうえで欠かせないカギとなっています。
■「意識」の背後には、意識をはるかに凌ぐ巨大な「無意識」が動いている
フロイトによると、私たちが意識できる部分は氷山の一角に過ぎず、人間の考えや行動、心は、意識をはるかに凌ぐ巨大な無意識によって支配されているといいます。つまり、私たちが意識的に行動していると思っていることも、実は無意識による影響を受けていると考えたのです。例えば私たちの願望が無意識のうちに失策行為となって現れます。
先の例でいうと、いつも仕事で迷惑をかけられており、「お世話になっておりますとは言っているけれど、実際はお世話になんかなっていない。むしろ自分がお世話をしているくらいだ」とか、「本当は疲れているからまっすぐ家に帰りたい。でも断るとあとでなにを言われるか分からないから行くしかない」という、本当は嫌だという気持ちを抱いていたのかもしれません。しかし、それを抑えて無意識の領域へと追いやっていたものの、無意識の気持ちのほうが勝ってしまい、言い間違いとして表面化したというわけです。
つまり、失策行為は本来の意図(「お世話になっている」「飲みに行く」)と、本人は意識していない逆の気持ちが心のなかでぶつかり合った(=葛藤)結果、生じたものと考えられます。