「不正アクセス」による採取でも証拠能力がある場合が
本案件において、問題となり得る不正アクセスは、IDやパスワードを無断で利用して、LINEやその他アプリに関するやりとりを見る行為ですから、上記のうち(1)の「なりすまし行為」に該当するかが焦点となります。
(1)の「不正アクセス」に該当するには、ネットワークを通じて他人のIDやパスワードを用いて、他人のパソコンやスマホにアクセスする行為であることを要します。妻が夫のパソコンにダウンロードされたLINEアプリに、夫のIDやパスワードを入力して、勝手にログインする行為は不正アクセスに該当する可能性があります。
他方で、夫のスマホのロックを解除したうえで、すでにログインしているLINEを開き、LINEの画面を見るだけでしたら、ネットワークを介した情報の取得ではないため、「不正アクセス行為」には当たりません。
しかし、本件のように、夫のスマホを用いて勝手に連絡先などを転送する行為は、ネットワークを通じて情報を取得する行為ですので、「不正アクセス行為」に該当する可能性があります。
ただ、このような「不正アクセス行為」によって、夫に何らかの経済的損害が発生していない場合には、捜査機関が、刑事事件として捜査を行うことは通常考えにくいでしょう。
また、民事訴訟においては、著しい反社会的手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法で採取されたときは、証拠の証拠能力が否定されるとされています。このことからも、証拠能力を否定する基準は極めて高いことがお分かりになるかと思います。
そのため、夫婦間における「不正アクセス行為」によって採取されたLINEメッセージにかかる証拠の証拠能力が否定されるケースはほとんどありません。
すなわち、かなこさんのケースに当てはめると、不倫相手の妻の行為は「不正アクセス行為」に該当する可能性が高いにもかかわらず、この「不正アクセス行為」により採取されたメッセージの証拠能力は、認められるといえます。なぜなら、刑事事件として捜査が行われることは考えにくいからです。
不倫はしてはいけない過ちですが、示談交渉の末、あまりに失うものが多いと反省・更生する余力すら奪われる場合もあります。事前知識による身の振り方で身を守ることは決して悪いことではありません。トラブルに発展した際には、専門家に相談したり、交渉前にしっかり留意点を調べておくことをお勧めします。