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医療観察法は精神障害がある人に対して、必ず適用されるのか
投稿者は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)」という制度を知り、ある疑問を抱きました。この法律は、心神喪失または心神耗弱の状態で重大な他害行為を行った人に対し、適切な医療を提供し、社会復帰を支援することを目的としたものです。
では、この医療観察法は心神喪失等の精神障害がある人に対して、必ず適用されるものなのでしょうか。投稿者はこの点に疑問を感じ、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の質問をしました。
(1)なぜ犯罪を犯しても心神喪失だと無罪になるのか。
(2)心神喪失で無罪となった場合、医療観察法に基づく手続はどのように行われるのか。
「罪を犯したのに、罰を受けないのか」
「精神障害につき無罪」という報道をみて、「納得できない」「精神異常だろうと刑罰を受けてほしい」と複雑な気持ちになる人は少なくないでしょう。報道に対するSNSでの反応をみると、そのような考え方はむしろ多数派のように感じられるほどです。
「罪を犯したのに、罰を受けないのか」「被害者や遺族の気持ちはどうなるのか」こうした反応は、自然なものだと思います。しかし実際には、無罪判決が出ても、そこで終わりではありません。SNSなどでは、「心神喪失で無罪となっても、どうせ精神病院に収容されるので同じ」という意見もありますが、実際のところはどうなのでしょうか。
無罪になったその後の手続に関わった経験がある弁護士として、また、実際に精神障害(心神喪失)を理由とした無罪判決を取ったことのある弁護士として、丁寧に解説していきます。本記事を通して、「精神障害につき無罪」に関する皆さまの疑問を、少しでも解消することができれば嬉しいです。
「罰」ではなく「医療と社会復帰」を目的とする、医療観察法とは
心神喪失で無罪になった人を、どう処遇するのか。実は、この疑問に正面から答えるような名称の法律があります。
「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」です。略称は「医療観察法」ですが、正式名称のほうが、心神喪失で無罪になった人をどうするのか、という課題に対応する法律であることがわかりやすいと思います(ただし名称が長いので、以下では「医療観察法」といいます)。
医療観察法第1条1項(目的等)
この法律は、心神喪失等の状態で重大な他害行為(他人に害を及ぼす行為をいう。以下同じ。)を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより……(以下省略)
最初の1条1項をみると、この法律が目指すところがわかりやすいです。ここに書いてあるとおり、医療観察法は、心神喪失の状態で他人に害を及ぼした人について、処遇を決定する法律です。ちなみに「心神喪失」とは、精神障害のせいで善悪をまったく判断できないか、または判断したとおりに行動することがまったくできない状態のことをいいます。
そして医療観察法は、精神障害の人を、最終的に以下のように取り扱うこととしています。
医療観察法第42条(入院等の決定)
裁判所は、(中略)当該各号に定める決定をしなければならない。
一 対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合 医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定
……(以下省略)
要するに、裁判所が「入院をさせる旨の決定」をするのです。わかりやすくするために、それ以外の、入院させない場合について書かれている部分は省略して引用しました。裁判所の決定は、大きな法的効果のあるものですので、入院をさせる旨の決定が下されれば、強制的に入院になります。決定に従わなければ、強制的な執行がなされ、病院に連れていかれます。
つまり、裁判で無罪になっても、もう一度、今度は異なる判断を裁判所が下すための手続が待っているのです。これは裁判ですので当然、入院させるという決定をする場合もあれば、入院させないという決定をする場合もあります。
「どうせ精神病院に収容されるので同じ」というSNS上の意見は、大きくは間違っていないことがわかります。ただし、入院させない場合もある、という点では不正確ともいえるでしょう。
それでは、どういった場合には強制入院とならないのか。「無罪のその後」をより正確に理解するため、この手続についてもう少し詳しくみていく必要があります。ただしその前に、そもそも精神障害による「心神喪失」とはなにかを、掘り下げてみたいと思います。

