(※写真はイメージです/PIXTA)

地方のとある衛生用品会社は、幾多の困難を超え、高性能の寝具の開発・販売にこぎつけました。商品をマスコミに取り上げられたことをきっかけに、売り上げも右肩上がりとなりますが、一歩間違えば倒産もありえたと、経営者は振り返ります。

「作りすぎない」ことの本当の意味

私たちが開発した、ホコリが少なく膨れの良い脱脂綿を採用した「パシーマ」という寝具が認知され、類似品が出てくることは「一品勝負」をしてきた私たちの会社にとって危機でもありました。コモディティ化するなかから一歩抜け出すための指針となったのは「作り過ぎない」という信念でした。

 

戦後の高度経済成長期には、どんどん作るという方針で成長を遂げてきた会社がたくさんありました。しかし市場が飽和し、消費者のニーズが多様化した成熟社会では、作れば作っただけ売れるということはありません。

 

そうはいっても私は「作り過ぎない」ということの大切さを最初から理解できていたわけではありません。むしろ作れるものなら、たくさん作ったほうがよいのではと思っていました。

 

「作り過ぎない」ことの意味を本当に理解したのは、ガーゼの織り機を3台入れたときでした。

 

パシーマが社内の製品の売上の5%程度であったにもかかわらず、ガーゼを自社で製造するために高額な機械を導入したときのことです。当時に必要だった台数の2倍の機械を導入したのです。私は、高額な機械を3台も購入してしまったのだから休ませておいてはもったいないとばかりに機械をどんどん稼働させました。

 

その結果として生まれたのは、使われるあてのないガーゼの山でした。倉庫に運び込まれたガーゼは場所をとります。しかも、ただ置いておけばよいわけではありません。カビなどが発生しないように清潔な状態を保って管理するというのは大変なことです。先に入れたガーゼを先に取り出す装置を考案していたほどです。だからといって無理をしてでも売ろうとするなら、安い値段をつけるしかありません。

 

作り過ぎたガーゼの扱いに頭を悩ませていたとき、タイミング良く雑誌「いきいき」で紹介してもらえる機会を得ました。そのおかげでパシーマが急速に売れ始め、その在庫は一気にパシーマに姿を変えて世の中に出ていきましたが、もし、あのまま在庫を抱え続けることになっていたらと考えるとぞっとします。

設備投資を急ぎ過ぎると、自らの首が締まることに…

「作り過ぎない」ためにも、作り過ぎる可能性のある設備を安易に入れるべきではないと私は考えています。もしその設備投資ができたとしても、事業が安定した領域にいくまでは入れるべきではありません。

 

例えば私たちの会社では、縫製をすべて手作業で行っています。しかし世の中には、自動で縫製を行うことのできる機械も存在します。実際に、中国の企業がアメリカで開発した自動ミシンがあるという情報を得て、問い合わせたことがあります。

 

もしそこで「10台機械を入れてそれを一人で回すことができれば、その分の人件費を削減できる」と考えて導入に踏み切ったら――確かに機械であれば人間のように疲れることもなければ食事を取る必要もないので、人間よりも「縫う」という作業自体の能率は上がります。

 

「高額な機械を背伸びして導入した」という事情があれば、ついつい休むことなく稼働させたくもなります。そうすると過剰に製品を作ることにつながり、必要以上の在庫を抱え売れるあてがなければ途方に暮れることになります。

 

しかもいくら高性能な機械を入れたとしても、私は人力がゼロになることはないと考えています。どんなに優秀なロボットでも、その縁の下には人間のエンジニアの存在が不可欠です。例えば鉄道が良い例です。最近の車両には無人運転のものもありますが、まったく人の手を必要としないわけではありません。システムの維持をする人や、線路のメンテナンスをする人など、見えないところにたくさんの人が関わっているのです。

 

ミシンも同じです。縫うことは自動であっても、ミシンの糸を交換したり、縫い合わせる材料を準備したり、縫い上がったものを取り出して運んだりといった手間を考えて見積もると、新しいミシンを1台導入したところで削減できるのはせいぜい1/2人分といったところでした。導入するとなれば、そのミシンを常設するためのスペースも必要になります。加えて、機械にトラブルが発生したときの対応や故障した場合の修理なども発生することを考えていくと、それなりの手間がかかります。

 

そこに1台あたり1000万〜2000万円といった金額をかけるのは、私たちのような中小メーカーにとってはどう考えても割に合いませんでした。「作り過ぎない」という信念を判断基準としていれば、目の前に示された新しいテクノロジーに目が眩んで安易に飛びつかず、過剰な設備に手を出すこともなく商品の価値を下げることもないのです。

 

 

 

龍宮株式会社 代表取締役社長
梯 恒三

 

 

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