「良いものを地道に作ってさえいれば…」という甘さ
中小ものづくりメーカーにとって非常に厳しい状況のなかで、変化に対応できる会社ばかりではありませんでした。大手や海外企業の安価な製品に対抗すべく、自分たちにしかできない商品を開発しようと奮闘する会社がある一方で、前向きな具体策を取ることなく流れに身を任せているだけの会社も多くありました。
誰しも自分の会社を潰したいはずがありません。
どうしても人員が足りなくて、目の前の業務に精一杯だったという会社もあるはずです。資金がなくて、新たな設備投資が難しかったというような事情もあったかもしれません。あるいは、戦後の景気の良いときにどんどん売上を伸ばしていった成功体験にしばられて「今までどおりに良いものを地道に作ってさえいれば、そのうち状況は好転するだろう」と高を括っていた会社もあったに違いありません。
いずれにせよあえて厳しい言い方をするなら、そういった企業は「楽をした」のだと思います。
今までに経験したことのなかったような時代の荒波のなかで、旧態依然とした地方の中小企業は自らの体質を変えることができず、あとは消えていくしかありませんでした。もちろん、地方の弱小企業である私たちの会社も生き残っていくのは並たいていのことではありませんでした。実は倒産の危機を迎えたこともあるのです。
サプライチェーンの一部になることの、恐ろしいリスク
厳しい状況におかれた中小ものづくりメーカーのなかには、大手企業のサプライチェーンの一部として組み込まれるという道を選んだ会社も多くありました。サプライチェーンというのは、商品や製品が消費者の元に届くまでの調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費といった一連の流れのことです。
商品の多くは、さまざまな原材料や部品などを組み合わせて作られています。それが運ばれ小売店などの店頭に並び販売されて、消費者の手に届きます。この一連の流れのなかで繰り返される受発注や入出荷といった取引のサイクルがチェーン(鎖)のようになっていることから、サプライチェーンと呼ばれています。
私たちの会社も、かつてはサプライチェーンの一部となって脱脂綿を資材として納品していたことがありました。自社の工場で作った脱脂綿がほかの会社の工場に運び込まれてカットされ、ほかの会社の名前を冠したパッケージに袋詰めされて店頭に並ぶというわけです。私たちは商品の「加工」という部分だけを担い、サプライチェーンの一部に組み込まれていました。
中小企業はこのようなサプライチェーンに組み込まれていて、自分たちだけでは成り立たないというところがたくさんあります。
私たちの会社も安定した加工料が入ってくるということで、一時的には助かっていた面もあります。
しかしこういった仕事は、いつなくなるか分かりません。なぜなら、取引先から見たらサプライチェーンの一部になっている会社はいつでも替えがきく存在であることがほとんどだからです。何かトラブルがあれば即座に取引が中止になることもありますし、取引先の方針転換で突然その仕事が必要なくなることもあります。
中小企業は経営が苦しいときほどこういった仕事に依存しがちですが、サプライチェーンの一部になるということは、長い目で見たら自らの首を絞めることになるかもしれないリスクをはらんでいるのです。
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