顧客データが消失!事例から見る「免責条項」の重要性
【ご相談までの経緯・背景】
個人やショップに向けたマーケティング支援サービスを安価に提供しているB社で、預かっていた顧客情報などのデータが消失する事故が発生しました。
営業損害や再構築費用、弁護士費用など合わせて約5億円の損害賠償を求める民事訴訟を提起されたB社は、当事務所にご相談にお見えになりました。
【解決までの流れ】
相手方はB社のサービスで複数アカウントを契約し、多数の販売サイトを運営していました。
あるとき、そのうちのひとつのアカウント(仮に3番とします)を解約してほしいとB社に依頼がありました。
依頼を受けたB社は3番を解約する手続きをとったものの、B社内で構築されていた業務システム上の不具合により、3番ではなく5番のアカウントの顧客情報の他、アカウントに紐づくデータがすべて消失してしまいました。
誤ったアカウントが消えたとなればすぐに気が付きそうなものですが、相手方で多数の販売サイトを運営していたことなどもあり、依頼とは違うアカウントが消えてしまったことが発覚しないまま相当期間が経過してしまいます。
その結果、B社のバックアップ期間は過ぎてしまい、事故が発覚したときには消去されたデータの回復は不可能、既に復旧するすべはありませんでした。
原因調査の結果、B社側の業務システムに問題があったことが確認され、B社は相手方に謝罪のうえ、一定の補償金を支払う意向を示しました。
ところが、損害額に関する認識が一致せず、相手方に納得してもらうことができません。両者に代理人弁護士が入って話し合いをするも、互いの主張する金額の乖離は大きく、結局、裁判へと至ってしまいました。
裁判では、B社のウェブサイト上に掲示された利用規約の免責条項について、その解釈と適用が大きな争点になりました。
また、B社の提供していたサービスは薄利多売で、多くのユーザーに活用してもらうことで安い金額設定が可能になるビジネスモデルです。B社に一定の落ち度があるとはいえ、ユーザー側に生じた損害をすべて補償していたら、ひとつのミスで利益がすべて無くなってしまいます。
「ユーザー側にとってこれだけ安い金額で利用できるのはリスクと裏腹である」という点や、「ミスに対してすべての補償はできないという免責を入れておかなければ事業として成り立たない」という点も主張しました。
そして、B社のサービス内容や業務システムの仕組みなどについて詳細な説明を行ったうえ、いかにB社にとって回避し難い事故であったかなどを立証していきました。
その結果、一審、二審、最高裁とすべて勝訴となり、賠償金の支払いは免れました。
【結果・解決ポイント】
このケースは、利用規約の免責条項が有効に機能した事例です。
契約書類や利用規約では、ある一文、場合によってはわずか一言の文言が入っているか否かで、大きな結果の違いが生まれてしまいます。
とはいえ、むやみに「全部免責」としても意味がありません。
自社のサービスやビジネスモデルをしっかり理解し、どこまでなら免責事項に入れられるのかを考えて規約を作らなければいけません。IT企業であれば、ITの専門知識や用語を理解している弁護士に依頼することも大切です。
裁判においては、裁判官が専門用語や最新技術などの知識がない場合もありますし、主張が正当であることを認めてもらうには、分かりやすく丁寧な説明が必要となります。
弁護士がサービスの根幹やビジネスモデル、それらを支える技術的なバックグラウンドについて理解していなければ、適切な説明をすることもできないので、専門家を選定する際にはその分野の知見があるかを見極めることが重要といえます。
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