(※写真はイメージです/PIXTA)

「兄には勝てない。相続でも、それは同じでした」そう語るのは、50代の女性・仁美さん(仮名)。昨年、母を亡くし、十分な説明がないまま、相続税申告の期限に追われて遺産分割協議書に実印を押すことになりました。納得できない思いを抱えたまま、今年は父の相続を迎えています。なぜ「話し合い」のはずの相続が、不公平感の残る結果になってしまうのか。相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が、実際の事例をもとに解説します。

相次いで起きた、両親の相続

「兄には勝てない。相続でも、それは同じでした」

 

昨日、50代の女性・仁美さん(仮名)が相談に来られました。

 

仁美さんのご両親は、かなりの資産をお持ちでした。昨年、お母さまが亡くなり、そして今年、お父さまも続けて他界されています。

 

相続人は、兄と仁美さんの二人だけです。

 

・昨年は母の相続税申告
・今年は父の相続税申告

 

短期間のうちに、二つの大きな相続が重なることになりました。しかも、どちらの相続にも、遺言書はありませんでした。

 

相続で最も大変なのは、「財産が多いこと」ではありません。本当に難しいのは、「財産をどう分けるか」を決めることです。

 

相続人全員が納得し、わだかまりを残さず、きょうだいの関係も壊さない。円満に相続を進めるためには、そこが何より重要になります。

遺産分割協議という名の「力関係」

遺産分割協議は、法律上は「話し合い」とされています。しかし現実には、対等な話し合いにならないケースも少なくありません。仁美さんのケースも、まさにそうでした。

 

兄は一方的で、高圧的な態度を崩しませんでした。数字や理屈を並べ立てながら、「こういうものだ」「これは自分の努力の結果だ」と主張します。一方、妹である仁美さんは、子どもの頃から兄に逆らえませんでした。

 

「今でいうモラハラですね。兄には絶対に逆らえなかった」

 

その関係性は、相続という人生の大きな局面を迎えても、何一つ変わることはありませんでした。

 

遺産分割協議の場は、形式上は“協議”でも、実際には長年積み重なった家族内の力関係が、そのまま持ち込まれていたのです。

 

母の相続で起きていたこと

まず、母の相続についてです。財産の総額は、4億円台に上っていました。

 

母名義の預貯金や証券は、生前から定期的に引き出され、兄が管理する証券口座へ移されていました。そこで運用が行われ、運用益も含めた資産の多くを、結果的に兄が取得する形となっていました。

 

これに対し、兄は次のように主張しました。

 

「これは、自分が管理・運用して増やした財産だ」

 

その結果、遺産分割は次のように決まりました。

 

・兄:約64%
・仁美さん:約36%

 

では、相続税はどうだったのか。

 

・兄:約350万円
・仁美さん:約490万円

 

仁美さんは、兄よりも取得した財産が少ないにもかかわらず、相続税の負担は重くなっていました。

 

「財産は少なく、税金は多い」

 

仁美さんが感じた違和感は、数字を見れば一目瞭然だったのです。

 

申告期限ぎりぎりで進められた相続

母親の相続税の申告期限は、11月15日でした。ところが、税理士から遺産分割協議書が送られてきたのは、11月に入ってから。申告期限まで、ほとんど時間がない状況でした。

 

相続税の納付期限も迫っており、十分に考える余裕はありません。「とにかく実印を押してほしい」と言われ、腑に落ちない点がいくつもありながらも、「押さない」という選択肢を取ることができず、結果的に押して進めたといいます。

 

あとになって仁美さんは、こう振り返ります。

 

「今思えば、考える時間を与えないための、兄と税理士のやり方だったのではないかと思います」

 

こうした経緯から、仁美さんの中には、母親の相続税申告や遺産分割について、いまも強い違和感が残っていました。

 

「納得できない」

 

「母が了解していたとしても、説明もなく、情報も開示されないまま進められた。あれを“公平”とは言えません」

 

その不満は、金額以上に、仁美さんの心をすり減らしていたのです。

父の相続で、さらに大きな問題が浮上

そして迎えた、父の相続。父名義の資産は、6億円台に上っていました。

 

内訳は以下のとおりです。

 

・有価証券:約2億円規模
・不動産(アパート・ワンルームなど):5棟
・借入金:約4億円

 

現在提示されている分割案は、次のような内容でした。

 

・兄:不動産+借入金(実質マイナス評価)
・仁美さん:有価証券中心(実質プラス評価)

 

一見すると、「兄のほうが大変そう」にも見えます。しかし、相続税を計算すると、状況は一変します。

 

・兄:相続税ほぼゼロ
・仁美さん:相続税 約3,700万円

 

ここで税理士から出された提案は、こうでした。

 

「有価証券を兄に渡せば、相続税は下がりますよ」

 

税金だけを見れば、確かに合理的な提案です。しかし、仁美さんは首を縦に振ることができませんでした。思えば初めての兄への「抵抗」でした。

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