相次いで起きた、両親の相続
「兄には勝てない。相続でも、それは同じでした」
昨日、50代の女性・仁美さん(仮名)が相談に来られました。
仁美さんのご両親は、かなりの資産をお持ちでした。昨年、お母さまが亡くなり、そして今年、お父さまも続けて他界されています。
相続人は、兄と仁美さんの二人だけです。
・昨年は母の相続税申告
・今年は父の相続税申告
短期間のうちに、二つの大きな相続が重なることになりました。しかも、どちらの相続にも、遺言書はありませんでした。
相続で最も大変なのは、「財産が多いこと」ではありません。本当に難しいのは、「財産をどう分けるか」を決めることです。
相続人全員が納得し、わだかまりを残さず、きょうだいの関係も壊さない。円満に相続を進めるためには、そこが何より重要になります。
遺産分割協議という名の「力関係」
遺産分割協議は、法律上は「話し合い」とされています。しかし現実には、対等な話し合いにならないケースも少なくありません。仁美さんのケースも、まさにそうでした。
兄は一方的で、高圧的な態度を崩しませんでした。数字や理屈を並べ立てながら、「こういうものだ」「これは自分の努力の結果だ」と主張します。一方、妹である仁美さんは、子どもの頃から兄に逆らえませんでした。
「今でいうモラハラですね。兄には絶対に逆らえなかった」
その関係性は、相続という人生の大きな局面を迎えても、何一つ変わることはありませんでした。
遺産分割協議の場は、形式上は“協議”でも、実際には長年積み重なった家族内の力関係が、そのまま持ち込まれていたのです。
母の相続で起きていたこと
まず、母の相続についてです。財産の総額は、4億円台に上っていました。
母名義の預貯金や証券は、生前から定期的に引き出され、兄が管理する証券口座へ移されていました。そこで運用が行われ、運用益も含めた資産の多くを、結果的に兄が取得する形となっていました。
これに対し、兄は次のように主張しました。
「これは、自分が管理・運用して増やした財産だ」
その結果、遺産分割は次のように決まりました。
・兄:約64%
・仁美さん:約36%
では、相続税はどうだったのか。
・兄:約350万円
・仁美さん:約490万円
仁美さんは、兄よりも取得した財産が少ないにもかかわらず、相続税の負担は重くなっていました。
「財産は少なく、税金は多い」
仁美さんが感じた違和感は、数字を見れば一目瞭然だったのです。
申告期限ぎりぎりで進められた相続
母親の相続税の申告期限は、11月15日でした。ところが、税理士から遺産分割協議書が送られてきたのは、11月に入ってから。申告期限まで、ほとんど時間がない状況でした。
相続税の納付期限も迫っており、十分に考える余裕はありません。「とにかく実印を押してほしい」と言われ、腑に落ちない点がいくつもありながらも、「押さない」という選択肢を取ることができず、結果的に押して進めたといいます。
あとになって仁美さんは、こう振り返ります。
「今思えば、考える時間を与えないための、兄と税理士のやり方だったのではないかと思います」
こうした経緯から、仁美さんの中には、母親の相続税申告や遺産分割について、いまも強い違和感が残っていました。
「納得できない」
「母が了解していたとしても、説明もなく、情報も開示されないまま進められた。あれを“公平”とは言えません」
その不満は、金額以上に、仁美さんの心をすり減らしていたのです。
父の相続で、さらに大きな問題が浮上
そして迎えた、父の相続。父名義の資産は、6億円台に上っていました。
内訳は以下のとおりです。
・有価証券:約2億円規模
・不動産(アパート・ワンルームなど):5棟
・借入金:約4億円
現在提示されている分割案は、次のような内容でした。
・兄:不動産+借入金(実質マイナス評価)
・仁美さん:有価証券中心(実質プラス評価)
一見すると、「兄のほうが大変そう」にも見えます。しかし、相続税を計算すると、状況は一変します。
・兄:相続税ほぼゼロ
・仁美さん:相続税 約3,700万円
ここで税理士から出された提案は、こうでした。
「有価証券を兄に渡せば、相続税は下がりますよ」
税金だけを見れば、確かに合理的な提案です。しかし、仁美さんは首を縦に振ることができませんでした。思えば初めての兄への「抵抗」でした。
