(※写真はイメージです/PIXTA)

早期の決着が見込まれていたはずのロシアのウクライナ侵攻ですが、いまだ戦火がやむ気配はありません。複数回にわたって行われた停戦協議は暗礁に乗り上げ、ウクライナ避難民は500万人を優に超えていると言われています。では、そもそもプーチン大統領の大義はどこにあるのでしょうか? また、現状以上の被害を食い止めるために我々が優先するべきこととは? ウクライナ人国際政治学者が、ロシアの歴史と照らし合わせて解説します。

長年、水面下で進められてきた「ウクライナ侵攻」

失敗に終わったウクライナ・ヤヌコーヴィチ政権の掌握

今回の「ウクライナ侵攻」は、これまで長年にわたり水面下で進められてきた、ウクライナのロシア化が表面化したにすぎません。プーチン大統領は政治的にウクライナを手中におさめようと幾度となくはたらきかけてきたのです。

 

2010年にウクライナで親ロシア派のヤヌコーヴィチ氏が大統領に就任しました。プーチン大統領はヤヌコーヴィチ大統領(当時)にロシアとの関税同盟を結ぶように圧力をかけつづけ、2013年、ついに、当時進められていたEUとの連合協定をめぐる交渉を停止し、ロシアとの関係構築を進めると発表しました。

 

しかし、そのことで大規模な抗議デモ・暴動が勃発し、ヤヌコーヴィチ大統領(当時)はロシアへ亡命、政権交代が起こりました。ロシア政府は「小規模な軍事戦争」と、「情報操作」のハイブリッド戦争で内部混乱に陥れようとしましたが、失敗に終わりました。

 

謀略によるウクライナ東南部の乗っ取りが頓挫すると、プーチン大統領はウクライナ南部のクリミア半島と強引に併合し、東部の2州、ドネツク州・ルガンスク州の一部を占領しました。

 

東部のドネツク州・ルガンスク州は2022年5月現在、ロシア軍の厳しい攻撃を受けて民間の犠牲者を生んでおり、米政府高官から「ロシアが併合を計画している」と、警告を受けています。

トランプ政権、ゼレンスキー政権、バイデン政権…アプローチするも失敗

2016年、アメリカでトランプ政権が誕生すると、政治を取引と考える実業家のトランプ大統領(当時)に近づき、ウクライナをロシアの勢力圏に入れるための取引を交渉しましたが、拒否されます。

 

2019年、ウクライナでゼレンスキー政権が誕生します。ゼレンスキー大統領は国家間の対立を嫌い、当初、ロシアに譲歩する姿勢を示していました。もともと俳優・制作者としてショービズ界に携わっていたゼレンスキー大統領の政治経験の浅さ、建設的な譲歩姿勢を利用し、ウクライナをロシアの支配下におこうと試みますが、またも完全に拒否されます。

 

2021年1月、政権交代の形で就任したバイデン大統領は、戦争を避けることを第一に優先しています。そんなプーチン大統領は戦争をちらつかせて脅せば、戦争回避のため、やむを得ずウクライナをロシアの勢力圏として容認すると考えましたが、バイデンに拒否されます。

 

このように、トランプ政権、ゼレンスキー政権、バイデン政権…。様々な手段でウクライナを政治的に乗っ取ろうと次々にアプローチするも、すべて失敗に終わったという背景があります。政権からウクライナを手中におさめることはできないと悟ったプーチンは、軍事的に力づくでウクライナを征服しようと侵攻に至ったのです。

 

ではなぜ今かというと、今後ウクライナは軍事力を高めていくことが見込まれているので、機を待てば待つほど軍事的に制圧することが困難と考えたのではないでしょうか。

 

つまり、ウクライナのNATO加盟の動きが今回の侵攻のきっかけではありません。NATOはウクライナの加盟は20年先と表明しているため、ロシアにとって差し迫った脅威ではないのです。

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