(※写真はイメージです/PIXTA)

手塩にかけて育てた企業を、後継者へスムーズに承継したい…。そのように願っている社長は多いはずです。しかし、経営者自身や後継者の状況、会社の経営状態、課税関係のタイミングなど、さまざまな要素が重なり合い、承継は先延ばしされがちです。回避するには、まず自社株を「いつ渡すか」「どのような方法で渡すか」という承継計画を作ることが重要となります。

事業承継は「自社株をいつ渡すか」が最重要ポイント

社長が代表取締役の座を退き、後継者を代表取締役にして、後継者に経営権を承継しても、社長が自社株を所有している限り、事業承継は完了しません(『【豊かな日本か、貧しい日本か】中小企業の事業承継が社会にもたらす、想像を超える「影響度」』参照)。

 

ほとんどの中小企業では、社長が自社の株式の大半を所有しているため、大株主の社長が株主総会で議決権を行使することにより、後継者を取締役から解任し、後継者に与えた経営権を取り上げることができるからです。また、取締役在任期間中に後継者を解任するのではなく、取締役の任期満了時に、後継者を取締役に選任しないという方法を取ることもできます。

 

社長が持つ自社株を後継者に渡さない限り、社長は、事業承継をいつでも「振り出し」に戻すことができます。筆者の経験から、後継者に完全にバトンタッチすることが心配で、この振り出しに戻す権利を死ぬまで持っておきたいという社長も多いと感じています。

 

後継者に自社株をいつ渡すかを決めることは、事業承継の最大のポイントです。

「自社株をいつ渡すか」という承継計画を作る

 自社株を後継者に移転する時期をいつにするかについて、社長・後継者・会社の状況・承継に係る課税の関係などさまざまな要因から、社長の生前の特定の時期に承継すると決めることは、たしかに難しいと思います。

 

しかし、それらをふまえたうえで「自社株をいつ渡すか」という承継計画を作ることは、自社の事業を継続していくために、社長が必ず果たさなければならない重要な課題です。

 

締め切りのない仕事はなかなか進捗しません。社長が元気な間は、ついつい先送りしてしまうのが事業承継です。そのため筆者は「75歳までに事業承継完了の計画書」を作成することを推奨しています(『【中小企業経営者】「納得の事業承継」を目指す〈事業承継完了計画書〉作成のススメ』参照)。

 

社長の生前に自社株を渡すのではなく、死ぬまで社長が持っておくと決めた場合でも、問題が生じることなく社長の相続で確実に後継者に自社株が渡るような計画を作り、その計画を完遂できるよう課題をこなしていかなければなりません。

自社株を渡す方法は「売る・贈与する・相続」の3つ

本稿のテーマでもある「自社株の渡し方」について、その基本的な方法は3つと筆者は考えています。

 

社長の生前に自社株を渡す場合には、自社株を承継する者に売る(有償譲渡)か、贈与する(無償譲渡)かの2つ。生前には自社株を渡さないという社長は、社長の相続で株を渡します。つまり、「売る」「贈与する」「相続」の3つが基本的な渡し方です。

 

それぞれの状況や意思に応じて、このいずれかの方法でまたは組み合わせることで、自社株を後継者に渡す計画を、社長は一定の時期までに作っていただきたいと思います。

 

3つの方法以外に、株式交換や株式移転など組織再編を行う方法もありますが、組織再編については難度も高く、中小企業の多くにあてはまる方法でもないと筆者は考えています。そのため、本稿では、中小企業の多くの社長が利用できる基本的な方法、「売る」「贈与する」「相続」の3つについて取り上げていきたいと思っています。

 

それぞれの方法にメリットがあり、また、ある方法を採用することで生じる課題もあります。1つを採用すればすべてが満たせるというのではなく、社長が重視する課題を解決するにはどの方法がよくて、そしてその方法を採用したことで生じる課題をどのようにクリアしていくかを検討しながら計画作りしていくことが必要です。

 

生じる課題へのストレスは人により異なり、それぞれの社長がどう感じるか、何を重視するかをふまえて、とるべき方法を調整していく必要があるでしょう。

 

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