(※写真はイメージです/PIXTA)

歯科矯正の治療期間は一般的に2~3年です。しかし、患者のことを考えたら、もっと早く治ったほうが絶対にいい。しかも同じクオリティで早く治ったら、誰でもそのほうがよいと思うでしょう。治療期間の短縮は可能なのでしょうか。歯科医師の成田信一氏が著書『自分で考え、やり抜く子の育て方』(プレジデント社)で解説します。

大学病院と開業医はどこが違うのか

■独立開業して初めて患者さんの率直な意見を聞く

 

そんな胸を張れない理由での開業でしたが、いざ開業してみると、ぼうっとしていたら患者さんは来てくれません。広告のことからマーケティング、そして、当然、治療のことなどについて思いを巡らすようになりました。大学病院にいたら気づかないことも結構ありました。

 

たとえば当時、矯正治療の際、症状によっては頭にヘッドギアをつけるのが当たり前でした。子どもの場合、つけるのを嫌がる子も多いのですが、大学病院ではつけないという選択肢はありません。教授が絶対的な権威を持っていますから、一度教授診断で治療方針が決まれば、ヘッドギア装着は絶対だったのです。嫌がる子がいても、下っ端の私たちが、なんとか説得して装着させていました。

 

しかし開業後は、誰かの権威があるわけでもなく、あらゆる判断は責任者である私自身が行います。

 

とはいえ、開業後も大学病院でやっていたようにヘッドギアの装着をしていました。その時やはり、嫌がる子とは押し問答になります。

 

「これをつけないと治らないよ」
「それでもつけたくない」

 

など、やり取りが続くのですが、その中でふと気づいたのが、「そういえば、率直な患者さんの意見を、自分自身が素直に聞けていなかった」ということです。

 

私は開業した時に、大学でやってきた治療と同じ治療をすればよいのだと思っていましたが、「それはちょっと違うのかな」と思い直すようになりました。

 

それから海外も含めて、いろいろな学会に行くようになり、さまざまな知見を得るようになったのです。

 

■短期間かつクオリティの高い矯正治療を追求

 

海外の学会に行くと、日本では得られない知見も得られますが、多くの関係者とも知り合います。積極的に海外まで学びに行くような矯正歯科医たちと話をしていると、自分が行っている治療に満足できなくなりました。刺激を受けたのでしょうね。そこで、新しい装置を使ってみたり、治療法を工夫してみたり……といったことを、現在に至るまでずっと続けているのです。

 

そうしたことを積み重ねた結果、臨床のレベルもぐっと上がったと思いますし、よりよく治るような仕組みに変えてきたという自信もあります。

 

私は凝り性なので、やり始めると、突き詰めてしまうタイプです。自分でもここまでやらなくてもいいのかもしれない、と思う時もあるほど、国内外の症例を研究し、臨床に役立ててきました。

 

そうした歩みの中で痛感するようになったのは、矯正治療にかかる時間短縮の必要性です。

 

矯正の一般的な治療期間は、だいたい2~3年です。それを少しでも早く終わらせてあげることが、患者さんにとってもよいことなのではないか、と思うようになったのです。

 

しかし、早く終わるだけではダメで、やはりよい状態が長持ちすることが大事です。製造業でいえば、リードタイムを短くするのは当たり前ですが、短いリードタイムになったからといって不良品が出てしまっては元も子もありません。

 

治療が短期間にできたとしても、クオリティが低いと、当然、まったく意味をなしません。そこで「短い治療で、かつクオリティも高めていく」ということが、矯正においての技術革新になるのだろうと思い、それを目指すことにしました。

 

実際に、現時点で私がどのくらいの期間で矯正治療をしているかをお伝えしましょう。ある学会の審査に10症例提出したのですが、その中で一番短い症例が1年、そのほか、1年2カ月、1年3カ月くらいが多く、一番長いケースが2年4カ月となっています。

 

一方、学会などで他の矯正歯科医が報告する治療期間は、一般的に2年6カ月です。おそらくこれまでに、1年を切っている症例を報告した矯正歯科医はいないと思います。

次ページ歯列矯正の治療期間の短縮には価値がある

※本連載は成田信一氏の著書『自分で考え、やり抜く子の育て方』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

自分で考え、やり抜く子の育て方

自分で考え、やり抜く子の育て方

成田 信一

プレジデント社

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