中国〈全国人民代表大会〉〈政治協商会議〉開催で見えてきた、容易ならざる目標達成の「内外要因」

中国〈全国人民代表大会〉〈政治協商会議〉開催で見えてきた、容易ならざる目標達成の「内外要因」

中国ではこの3月も、毎年恒例の「全国人民代表大会」「政治協商会議」(両会)が開催された。例年同様、焦点は全人代の李克強首相による政府活動報告だが、この秋は指導層交代を議論する5年に一度の党大会(今回は第20回のため、略して「20大」と呼ばれている)を控えるほか、中国内ではコロナ感染再拡大の不安もある。ロシアによるウクライナ侵攻で国際社会が動揺する中、両会を巡る動きには一層の注意が必要だ。中国内外の中国語媒体から真相を探る。

財政政策は保守的だが、一定の刺激効果も

報告では、成長率目標達成の鍵となる財政金融政策について、「効果を高めた持続可能な積極的財政政策」「柔軟で適度な穏健的金融政策、合理的で十分な流動性供給」とした。金融政策についての言いぶりは昨年と変わらず。財政政策について詳細を見ると、31省市区のうち大半の2022年予算は財政収入の伸び悩みを前提にしている。

 

特に不動産市場の低迷で、土地譲渡金収入(国有地の開発業者への転売による収入)に依存する基金収入予算は17の省市区でマイナスの伸び。全国財政赤字比率目標(対GDP比)も前年の3.2%から2.8%に引き下げられ、インフラ投資財源となる地方政府専項債枠は前年と同じ3.65兆元に設定されるなど、総じて当局の財政持続性を重視する保守的財政運営姿勢がみえ、財政刺激には一定の限界が予想される。ただ以下から、一定の刺激効果は見込まれる※3

 

※3 3月10日付中国地元経済誌界面新聞

 

①赤字比率は人民銀行(中央銀行)他の国有金融機関が剰余金を国庫(中央政府性基金収入)に上納する臨時収入を含んだうえでの目標。そのため、赤字目標は厳しくなっているが、2013年来続いている企業や納税者に対する税繰り延べ・費用引下げ(降税減費)は2.5兆元と過去最高を見込んでいる(うち付加価値税である増値税繰り延べ額1.5兆元)。

 

②GDP規模が大きくなっていることから、赤字絶対額では前年比2000億元程度の緩やかな減少幅に止まる。

 

③前年からの繰り越し調整財政支出(1.27兆元)が赤字目標とは別に上乗せされる形で支出されると、赤字比率は実質3.8%と前年比むしろ上昇する。

 

④地方政府専項債は総枠据置きの中で、前倒し発行が進められている(前年は3月から発行が本格化したが、2022年は第一四半期すでに発行枠の34%を消化)。

通年での目標達成「容易でない」…多くの内外要因

2022年当初、経済諸指標が比較的強く、中国内では「上々の出だし(開門紅)」と言われたが、3月、4月の景況感は大幅に悪化(国家統計局、民間財新の3月、4月の製造業およびサービス業の購買経理指数PMIは、何れも景気拡大縮小の境目50を大きく切った)。

 

第一四半期は成長率が前年比4.8%と前期4.0%からは拡大したが、年成長率目標を大きく下回り、特に消費小売額が3月の落ち込み(前年同月比3.5%減)で3.3%増と低迷、また不動産投資も0.7%増と昨年来の伸び鈍化が加速した。以下、通年での目標達成は容易でないと予想される多くの内外要因がある(図表2)。

 

(出所)中国国家統計局、財新(中国地元経済メディア)
[図表2]PMIの推移 (出所)中国国家統計局、財新(中国地元経済メディア)

 

①高債務体質の是正

国内的には経済の高債務体質の是正が引き続き大きな課題。社会科学院系列の国家金融発展実験室(NIFD)推計によると、債務の2021年末レバレッジ比率(中国で「杠杆率」と呼ばれる債務の対GDP比)は2021年末、前年末比やや低下しているもののなお高水準で、特に非金融企業部門の債務は諸外国に比べ著しく高い。
 

NIFD推計では、地方政府が設立した地方政府融資平台(LGFV)が抱える債務は非金融企業部門に含まれていると思われるが、ゴールドマンサックスはこれを「地方政府の隠れ債務」とみて53兆元と推計。この場合、非金融企業部門債務は低下するが、深刻な状況に変わりはない。

 

地方政府債務は財政部が発表している(LGFV債務を含まない)公表値でも2022年2月末31.6兆元。個別に見ると、2020年6月末時点で、貴州、内蒙古、遼寧など北部や西部の9つの地方政府の債務残高は、すでに対総合財政力比100%の警戒線を超えている。

 

②不動産業界に下押し圧力

特に高債務を抱える不動産業界には、2022年も引き続き内外債券の満期到来で6000億元以上の強い債務返済圧力がかかるが※4、業界の高債務体質を是正する当局の基本方針は変わらず、デフォルトリスクが続く見込み。「住宅は住むもので投機するものではない(房住不炒)」との方針も報告で再度強調されており、業界には逆風が続くことが予想される。

 

※4 2月28日付中国地元経済誌第一財経

 

全人代後、中国当局は予定していた不動産税の2022年試験的実施拡大を、なお一部試験地の条件が熟していないとして見送りを発表。これは不動産市況にはプラス材料だが、それだけ市況が低調であることを示している(2021年10月~22年3月、主要70都市住宅価格の半数以上が前月比マイナス。連載『コロナ禍から回復の中国経済が背負う「中国債券デフォルト」の危機』参照)。

 

③ゼロコロナ政策の影響

両会頃から山東、吉林、広東、そして全国へと感染が再拡大。3月末時点、GDPシェアで33%の地区で部分的または全面的都市封鎖(封城)を実施。中でも上海の事実上の封城が注目された(当局は「ブロック毎の封鎖管理(分批封控)」「全面静態管理」といった用語を使用)。ゼロコロナ(清零)対策が堅持されると、消費を中心に経済に下押し圧力がかかる。

 

香港中文大学経済分析チームが3月末、本土の約200万貨物車両データと封城都市のGDPシェアを基に推計したところでは、現状が続くと毎月460億ドル強の付加価値が喪失、年間で名目成長率を4%押し下げ。北京、広州、深圳で上海と同様の措置が採られると12%押し下げられる。

 

李氏は全人代後記者会見で、「タイムリーに変化に対応し、段階的に円滑な物流と人流の回復を図る」とし、習氏は両会後の3月政治局常務委会議で、「最小の代償で最大の防疫効果を図る」ことを指示。これらは「動態清零」への政策転換と言われているが、具体的に単なる「清零」と何が違うのか、実際にどの程度清零が緩和されるかは不透明。

 

中国当局が清零に固執するのは、医療資源不足で一旦感染者が爆発的に増加すると、医療体制が対応できなくなることへの不安が強いためと言われている。

 

④不確実な海外要因

欧米との対立、ロシアのウクライナ(「ウ」)への軍事侵攻(これについては次回以降詳述)など多くの不確実要因がある。特に、エネルギーや小麦などの国際価格高騰に伴う輸入コストの上昇がすでに発生している。ロシア、ウとも世界の主要小麦輸出源で、また中国のトウモロコシ輸入の3割はウからの輸入。ロシアは原油、天然ガス、石炭について各々、生産では世界3位、2位、6位、輸出では2位、1位、3位で、中国の対ロ輸入の3分の2はこれらエネルギー関連が占める。

 

例えば中国の原油輸入は2021年5.1億トンで、1バレル当たり1ドル上昇する毎に支払額は35億ドル増加する計算になる。ウ情勢の悪化・長期化は世界の成長と貿易量、ひいては中国経済に対する下押し圧力となる(ゴールドマンサックス推計では、原油価格が1バレル当たり20ドル上昇すると、中国成長率は0.3%ポイント低下)。

 

 

(注)1月の数値は旧正月の関係で、2月に合わせて発表されている。 (出所)中国国家統計局
[図表3]社会消費品小売販売額前年比伸び率(%) (注)1月の数値は旧正月の関係で、2月に合わせて発表されている。
(出所)中国国家統計局

 

 

(出所)中国国家統計局
[図表4]不動産開発投資 (出所)中国国家統計局

 

 

(注)人民銀行推計では2020年末280.2%(企業161.7%、家計 2.6%、政府45.9%)、2021年末272.5% (各々153.7%、72.2%、46.6%) (出所)国家金融発展実験室(NIFD)、人民銀行四半期別貨幣政策執行報告
[図表5]各部門債務対GDP比 (注)人民銀行推計では2020年末280.2%(企業161.7%、家計 2.6%、政府45.9%)、2021年末272.5% (各々153.7%、72.2%、46.6%)
(出所)国家金融発展実験室(NIFD)、人民銀行四半期別貨幣政策執行報告

 

 

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