2022年3月、中国は恒例の「全人代」が終了した。以降、関係者たちの関心は秋の「20大」へと向かい、習近平続投か、そして李克強以降の後継首相について注目している。マスコミ報道等の場を借りて、主要官僚たちが微妙な言動で神経戦を繰り広げる中、動向をつぶさに観察すると見えてくるものがある。中国内外の中国語媒体から今後の行方を考察する。

「秘密を漏らしがち」な李克強氏、最後の記者会見

以前から、外国メディアは全人代後の李克強氏の記者会見に注目している。同氏は意図的か否か定かでないが、公の場、特に全人代後の記者会見で「秘密」を漏らすことが多いためだ。

 

例えば2021年10月、多くの地方で電力不足に見舞われた時に広東省の火力発電所を視察した際、「中国の消費者物価指数(CPI)で示されるインフレは食品価格で決まるため、電力価格がいくら上昇してもインフレにはならない」と発言。この発言はその後ネットから削除された。

 

2020年全人代後記者会見で、 習近平氏がすでに貧困脱却完了を宣言しているにもかかわらず、「月収入1000元以下の者がなお6億人いる」と発言したことは有名だが、2021年全人代後記者会見でも、「新雇用形態の就業者(灵活就業、柔軟性のある就業)が現在2億人以上存在する」と発言。「灵活就業」は就業と失業の中間で雇用が保障されておらず、敏感な存在とされているだけに注目を集めた。

 

今回の全人代後記者会見は2時間以上におよび、内外記者の13の質問に答えた。元来、海外華字誌を中心にした反習筋は、習氏と考えが異なり両人の不和が伝えられる中、李氏を評価することで習氏を批判する傾向が強いが、今回も同様で、特に以下のような点が注目・評価されている。

 

①社会的弱者への言及

 

中央電視台(CCTV)や人民日報の雇用、収入、民生に関する質問に答え、昨年に続き、「灵活就業者はなお2億人以上いることは提起せざるを得ない(不得不)」とした。

 

江蘇省徐州で1月、8人の子供(八孩)を生んだという女性が鉄の鎖に繋がれた写真の流出が発端で、「八孩女」「鉄鎖女」事件として国内で大きな社会問題になっている女性や子供の誘拐、人身売買を念頭に、「最近、ある地方で女性や子供の権益を著しく侵害する事件が発生したことに強い憤りを感じる(気憤)」としたことも、首相発言として異例。いずれも、大言壮語をせず、社会的弱者に言及したもので好感が持てる。

 

②抑えた対米批判

 

欧米メディアの「50年前のニクソン訪中で始まった中米接近の時代は終わり、現在は対米関係が悪化しているとの認識に同意するか」との質問に対し、「当然、両国には社会制度、歴史文化、発展段階の面で大きな差異があるが、協力が主流でそれが世界にとって有益」とし、対米批判を抑え、米国に向け善意を発した(釈善意)。

 

③理性的だったウクライナ問題に関する発言

 

欧米メディアのウ問題に関する質問への答弁は、前述の通り、慎重な言い回しだったが、事態に強い懸念を示し、「喫緊の課題は緊張がこれ以上高まって制御不能にならないようにすること。ウに早く平和が戻ることを希望」とも発言。李氏や他の主要官僚は理性的でプラグマティックな見方を持っていることを示した。同時に、李氏やそれに近い官僚の考えは、外交部の戦狼外交的なやり方(作風)とは著しく異なっていることが明らかになった。

 

④台湾問題も感情的批判なし

 

台湾メディア(東林)の台湾問題についての質問に対しても、「本土と台湾(両岸)は1つの家族(一家人)で、その手足のように親密な関係(手足親情)を分断することはできない」と強調。「台湾独立勢力に対するヒステリックな批判」や、「いわゆる国外勢力に対する脅し」のようなものはなく、ここでも習勢力とは明らかな違いを見せた。

 

他方、胡錦濤・江沢民時代の集団指導体制と異なり、「日陰の存在」としての李氏を象徴する、特段の内容はない会見だったとの評価もある(中国内の独立系評論家とされる人物)。

 

そうした論者は、①2013年就任時は「習李体制の到来」と騒がれたが、最初の5年間は反腐敗運動の嵐の中で実態は「習王(王岐山副主席)体制」だった、②当初「リコノミクス(李克強経済学)」が注目され、李氏は古い制度や観念を破壊し大胆な改革をする「破壁者」と称されたが、次第に「北院」、つまり中南海北部に位置する国務院(政府)と、南に位置する「南院」、つまり党中央との矛盾が顕在化し、経済に対する考え方は「リコノミクス」ではなく、習氏の提起した「新常態」になったと総括している※1

 

※1 3月11日付中国瞭望

 

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