20大を控え「安定」の強調
一見些細な事象に見えるが、昨年に続き、全人代開幕式で習近平国家主席の前にだけ2つの茶杯が置かれた(連載『2021年中国全人代、もうひとつの側面を読み解く』参照)。20大での習氏の国家主席・党総書記3期目続投が既定路線になっていることを象徴するものと関心を引いた。
他方、李克強首相は元来「史上最弱の首相」と称されることが多く、同氏の地方視察報道も教宣担当の王沪寧常務委員が抑えているなどの噂が絶えないが、両会期間中も、以下のような理由から、李氏の表情が冴えないと言われた。なお、王沪寧氏は江沢民、胡錦濤、習近平3代の国家主席に仕えた「三代にわたる皇帝の師(三朝帝師)」の異名を持つ。あまり表舞台に出ず、裏で権力を操っているとされる人物だ。
①部下の怠慢やスキャンダルが相次いで明らかにされ、前国務院秘書長や前国土資源部大臣(部長)ら共青団系の李氏側近が相次いで辞職、降格処分となった。
②報告では厳しい経済状況下で、低い成長率目標を設定せざるを得なかった。
③首相退任間近で(全人代後記者会見で首相として今年が最後の全人代になると明言)、退任後の自身の処遇・利害に関わる問題が出てきた。
本年両会の特徴として、20大を控え、「安定(穏)」が期間中を通じて強調された点が挙げられる。李氏は報告で「穏」に76回も言及。他方、習氏は両会期間中に開かれた解放軍と武装警察部隊代表会議(中央軍事委員会副主席らが出席)で、「軍は作戦の準備をしっかり行い(抓緊)、地方の社会的大局の安定維持に助力し、様々な突発的事態を迅速かつ効果的に処理する必要がある」と、「穏」の確保を強調した。これらは逆に、社会不安定化要因の発生を懸念する事情があることを暗示するものかもしれない。
李氏は報告の中で冒頭、および2021年経済・外交を回顧する文脈で、「過去1年の成果は習近平を核心とする党中央の指導の結果」と総括。報告のその他の部分でも、李氏が行う演説としては、(上記③を意識してか)珍しく習氏礼賛が目立った。
例えば、習氏の党における核心地位と、習近平新時代中国特色社会主義思想の指導的地位の「2つの確立」を深く認識し、思想・政治・行動を「習近平を核心とする党中央」と高度に一致させることを各級政府に指示するなどだ。ただ、筆者が中国メディアの演説実況中継を見た限りでは、李氏の演説当該部分のトーンは決まった経の文句を早口で唱えるだけのようだった。
散見される不安材料
他方、汪洋政協主席が政協代表会議で習氏の名前に言及したのは2回だけで、その代り「中共中央」を多用した。2018以降、汪氏が政協代表会議演説で習氏に言及する回数は年を追う毎に減少している。習氏の具体名に言及するか、「中共中央」とだけ言うかには大きな違い(大為不同)と深い意図(深意)があり、汪氏の何らかの立場・態度の変化を体現するものではないかとの見方がある※1。
※1 3月7日付海外華字誌看中国視頻(TV)
国営メディアの新華社は、「全人代代表全員が起立し習主席と常務委員を歓迎」として開幕式のもようを伝え、その際、習氏やその他の常務委員が入場する写真を掲載したが、写真は出席者全員が習氏ではなく、その後ろを見ている様子を捉えたものだった。
李氏が首相として最後の出席になるため、例年以上に同氏に慰労の意味で拍手が送られたということかもしれないが、ネット上では、「全人代代表はみな、習氏以外の常務委員に関心があるようだ」「写真を選んだ者は再教育送りだろう」「手の込んだ風刺(高級黒)」「王沪寧がまた嫌がらせをした」などの声がある(王氏と習氏との関係については様々な憶測がある)。
両会の欠席者が多いことも様々な憶測を呼んだ。全人代は定員2951名に対し欠席161名、政協は2157名に対し欠席169名で、計330名が欠席した。感染状況が悪化していた香港の代表19名を除いても、多くの各地区代表が欠席。本人の失脚や、現地で何らかの突発的事情が発生している可能性がある。特に、党・国家指導層・副国級待遇と言われる政協副主席24名のうち3名が欠席したことは異例。
事前に健康問題を理由に欠席願を提出していた元香港行政長官は別にして、元寧夏自治区党委書記(ウイグル族)と元交通運輸部党組書記の欠席は、前の政権サイクル(第12届)の同時期にも副主席2名が失脚していること、現在20大に向けて人事作業が進められているタイミングであることから、様々な憶測を呼んでいる。
元寧夏自治区党委書記については、「限度を超えたムスリム文化推進」「宗教極端主義奨励」の疑いで調査を受けているとの報道が全人代後流れた。実は、2021年11月に開催された第6回党中央委員会全体会議(6中全会)の出席者も、過去5年で最も少なかった(中央委員197名、委員候補151名)。
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