「有事の金買い」ののち、利益確定の動き強まる
金価格(NY金先物価格)は、ロシアによるウクライナ侵攻など地政学リスクの高まりを受け「有事の金買い」の動きが強まり、3月8日に一時2,078.80ドルをつけた(出所:BloombergティッカーGC1)。
その後は利益確定売りに押され、3月29日に一時1,900ドルを割り込んだものの、再び持ち直しの動きをみせ、4月18日には2,000ドル程度まで回復した。4月21日の取材時点の終値は1,940ドル程度となっている[図表1]。
引き続きFRBによる継続的な利上げやバランスシートの縮小ペースの加速が懸念されることに加え、世界経済の正常化が米実質長期金利に上昇圧力をもたらすことで金価格は抑制されるとの見方をメインシナリオに置く。
とはいえ、原油を含めたコモディティ価格の上昇・高止まり等を背景としたFRBによるオーバーキルリスク(金融引き締めにより景気を過度に冷やす懸念)に加え、ロシアへの経済制裁強化を受けたグローバル経済の減速・失速(リセッションの懸念を含む)が先行きの米実質長期金利に下方圧力をもたらすリスクシナリオの可能性も残っている。
実際、足元では米実質10年債利回りのマイナス幅が急速に縮小するなかでも金価格が上昇する展開となっている点には留意が必要だろう。通常、金価格と米実質長期金利との間に逆相関(異なる方向の値動き)の傾向がみられるが、足元では順相関(同じ方向の値動き)の傾向が見受けられる。
リスクシナリオが顕在化した場合、VIX指数(恐怖指数)上昇と原油価格の急落および金価格の上昇による金/原油倍率(金価格÷原油価格)の急上昇が生じる恐れがあるとみる。このように先行きの景気後退につながるリスクが残るなかでは、投資家によるヘッジ需要が金の下値をサポートするとみる。当面は1,900~2,100ドル程度を想定し、投資に臨みたい[図表2]。
月次ベース(月末終値)の金価格と米長短金利差(図表3。米10年債利回りと米5年債利回りとの差)の推移をみると、逆イールドが発生した後、米長短金利差が拡大する過程で金価格が堅調に推移するといった経験則も見受けられる。
ちなみに逆イールドとは、短期金利が長期金利の水準を上回る状態を指し、先行きの景気後退のシグナルとして捉えられることも多い。
IMFは4月19日に世界経済見通しを公表した。前回1月の公表数値と比較し、2022年の世界の実質成長率見通しを0.8ポイント引き下げた。また2023年の同見通しも同じく0.2ポイント引き下げた。
ロシアのウクライナ侵攻を背景に資源高を通じたインフレが加速し、各国中銀による利上げが景気減速をもたらすとの見立てだ。
OECDの世界の景気先行指数も昨年ですでにピークアウトしており、先行きの景気の減速度合い(落ち込みの程度)によっては、年後半にかけて金価格は2,100ドルを超える強気な展開もあり得よう。