(※写真はイメージです/PIXTA)

日本は100年以上の業歴を有する老舗企業が3万社を超え、世界に類を見ない「企業長寿大国」です。戦争、大震災、大不況…歴史上稀にみる深刻な経済危機に見舞われてもびくともしなかった老舗にはワケがあります。ジャーナリストの清丸惠三郎氏がレポートします。

老舗は「革新の連続」こそ求められる

経営面での「正統派の異端」ぶりはこうした点にも見られる。今でこそ日本酒というと大吟醸と言われるが、当時は新酒鑑評会用の特殊な酒で、販売用ではなかった。宮﨑氏はそのうまさを知ると、ベテラン社員の反対を押し切り市場に出す。「宮の雪」は地元を中心にうまい酒との評判をとり、各種鑑評会でも相次いで金賞を受賞する。現在、宮﨑本店で仕込む清酒はほとんどが大吟醸ないしは純米酒などの特定名称酒で、醸造用アルコールを用いた普通酒はほとんどない。結果、清酒部門の収益も確実に改善している。

 

次に課題となったのが、本業ともいうべき焼酎事業の立て直しである。2000年ごろになるとイモなどを原料とした乙類焼酎がブームになる一方、甲類は低迷期に入る。「キンミヤ」も同様であった。苦悩する宮﨑氏は下町の居酒屋で、ある発見をする。店主に出された酎ハイを飲み比べてみると、明らかに「キンミヤ」が「口当たりが柔らかく、おいしい」のだ。別の店では常連客から「俺たちはキンミヤしか飲まないよ」とも言われた。

 

宮﨑氏は味に自信を持ち、これまでの大型容器で売る販売方法を改め、600ml、300ml、200mlと小型の瓶で売ることにした。「キンミヤ」のブランド化に挑んだのである。もちろん単価は上がったが、関東大震災時からの分厚い支持層は逃げることはなかった。今や都内では毎年1000店も取引先が増えており、下町から山手線の内側へ、東京から大阪へと人気は広がっている。ここ5年ほどで焼酎の売り上げは倍増、50億円余りに達しているという。自己資金も70%余りに達した。

 

この資金力を生かして、17年秋に社長に就任した息子の由太氏は手造りの部分を残しながら、自動化可能なところを自動化した清酒蔵を新造、清酒分野で攻めの体制に入っている。大手ビールメーカーの営業畑で経験を積んだ由太氏は帰ってくると、「キンミヤ」の拡販で実績を上げ、この新しい挑戦に会長の由至氏も全面支持の構えだ。後継者を信頼し、社内にとかく混乱をもたらす院政の姿勢など、どこにも疑えない。

 

「とにかく老舗は革新の連続こそ求められる」と宮﨑氏は語る。実は宮崎氏は、同友会内において「経営戦略」重視を長年にわたって訴えてきた論客として知られている。鋤柄修氏の『経営者を叱る』では「中同協では、経営指針つくりにあたり、『戦略』という言葉は曖昧で使いづらいから、『経営指針成文化と実践の手引き』改定時には使わないようにしよう」としたと記す。そこで経営指針を「経営理念」「10年ビジョン」「経営方針」「経営計画」の4つの要素として定義づけたという。

 

「老舗は革新の連続こそ求められる」という宮﨑氏にしてみれば、「あらゆるレベルの経営は革新の連続」であるし、そこにおいて経営者は戦略的に企業革新に挑んでいかなければならないということになる。

 

一方で鋤柄氏はじめ、「戦略」という言葉にこめられた変化に立ち向かう経営者の主体性の重要性を訴える同友会幹部が増え始めるなかで、宮﨑氏の信奉者も増えているようだ。

 

ちなみに先の下津醤油のISO導入を強く促したのも、実は宮﨑氏である。

 

清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー

 

 

※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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