「体調を崩す食材は摂らなきゃいい」は解決策なのか?
即時型のIgE型アレルギーの場合はすぐに症状が出るので分かりやすいですが、遅延型の反応(IgGが関連しています)の場合、すぐには症状が出ないので、気づかれないことが多いです。半日から数日たってから症状が出ることもあります。
しかし、疑われる食材を2週間ほど控えると、頭痛や倦怠(けんたい)感、うつ症状、湿疹などの症状が明らかに改善する場合があります。良くなったと思って、再び摂り始めるとまた症状が再発します。
小麦以外でこのような症状が起こる場合は、「遅延型フードアレルギー」とか「隠れアレルギー」とも言われ、これについて説明した本が最近では何冊も出ています。ひょっとしたら自分に当てはまるのではないかと思い、小麦や乳製品などの食材を控えることで症状が改善するケースは枚挙にいとまがありません。
最近になって、ようやく広く認知され始めた病態ですが、実は正しく理解されていない場合があります。多くの本では、このような病態があることを説明しただけで、食事制限をすれば治るという結論で終わっていることが多いのです。
「アレルギー」という名前がつくと余計に、その原因の「食材」が悪いと思ってしまうのも当然でしょう。そして、その食材を摂りさえしなければいいと思い込んでしまいます。しかし、本当にそうなのでしょうか?
これまで何度も述べてきたように、いちばん根本的な原因はその食材ではなくて、腸内環境、マイクロバイオータのかく乱(腸管ディスバイオーシス)です。
「遅延型フードアレルギー」は「遅延型フードアレルギー検査」というもので調べることができます。最近では、その検査を扱っているクリニックも増えてきていますし、ネットでも申し込むことができます。それで、これまで原因が分からず、何年も苦しんできた症状が改善する場合があるということはとても喜ばしいことです。
しかし、一方ではとても悲しい話も耳にするようになってきました。
検査結果を見たドクターが、反応のある食材をすべて除去するように指導される場合が実に多いようです。もちろん、それで症状が改善する場合もありますが、反応の出ている食材がすべて体調不良の原因になっているわけではないのに、過剰な食事制限を強いられるというのです。厳しい食事制限に耐えられなくて、当院に相談に見える方もたくさんおられます。
遅延型フードアレルギー検査で食材に反応が出るのは、腸管のバリア機能が低下し、粘膜下層の免疫細胞が過剰に刺激されるからです。ですから、反応の出ている食材がすべて体調不良の原因になっているとは限りません。
このような過剰に食事制限を指導されている現状を見て、2015年に日本小児アレルギー学会は遅延型フードアレルギー検査を食物アレルギーの原因食品の診断法として推奨しないことを発表し、日本アレルギー学会もそれを支持しました。
本連載を読んできた皆さんはすでに、この検査の本当の意味をご理解いただいていると思います。それは、腸管のバリア機能がどの程度低下し、免疫のバランスが崩れているのかを評価することであり、どの食材を除去しないといけないかという問題ではないのです。即時型アレルギーと遅延型アレルギーとの違いを分かっていないことが誤解の原因です。
学会が推奨しない検査という公式見解を出したことで、「腸管のバリア機能や免疫バランスの崩れの程度」を知るという有用な意味までも否定されてしまったように思います。検査結果を正しく活用しない、間違った指導によって、正しい治療をするチャンスを失ったと言い換えることができるかもしれません。
遅延型フードアレルギーは、単に食材を除去することでは治りません。そのベースにある腸管のバリア機能の低下を改善させ、腸管免疫のバランスを整える必要があります。そのためには、消化管機能をサポートし、腸内環境を改善し腸管ディスバイオーシスを回復させる必要があるのです。この検査は、そのための目安にすることで本来の価値を発揮することができるのです。