「相続放棄」のヤバい落とし穴
今回は、相続放棄をミスるとこんな悲劇が起こりますよ、というお話をしたいと思います。
相続放棄を簡単に説明すると、裁判所にきちんと書類を出して、それが受理されることで、その人はもともと相続人ではなかったという扱いになり、プラスの財産も、借金などのマイナスの財産も一切相続しないことにできる制度です。
相続放棄に関しては、たびたびゾッとするようなことをしている方もいらっしゃるので、今回は注意喚起も含めて解説できればと思います。
わかりやすいように事例を設定してみましょう。まず登場するのは、両親とその息子2人です。両親ともにそれなりの高齢で、息子たちも40~50代です。
あるとき、父親が亡くなりました。この場合の相続人は妻と息子2人です(図表1)。
息子たちはそれぞれ自分の家庭を持っているので、実家には母親が一人で残されることになります。その自宅の名義は亡き父のものなので、そこに母が住み続けるとなれば名義変更をしなくてはありません。ここまではよくある話です。
今回の相続では、もともと父の遺産は母親に全部相続させようという話になっており、亡き父は借金がないことも聞いていました。ただ、この息子が法律を少し学んだことのある人物で、相続放棄という制度があることを知っていました。そこでこんな提案をします。
「万一、実は借金があったとわかったときにそれを相続してしまうのは嫌だから、マイナスの財産も含めてお袋が引き受ける形にしようよ。でも、これを普通に遺産分割協議で進めてしまうと、債務を少し承継してしまう可能性もあるから、俺が家庭裁判所で相続放棄してこようと思う。それでお袋が遺産を全部相続するような形にしてくるよ」
このように聞くと、父親が亡くなったことを知った日からきちんと3ヵ月以内に、息子が家庭裁判所で相続放棄をして、息子たちが相続人から外れて母親が全財産を相続する…というのをイメージするかもしれません。
しかし、実はここが一番ヤバい落とし穴なのです。
相続放棄しても、相続人は「母だけ」にはならない
まず注意すべきは、相続放棄をすると最初から相続人ではなかったことになる、ということです。
もう一度、この事例の相続人を確認しましょう。家族構成は父、母、息子2人です。母親は亡き父の配偶者ですから、常に相続人です。息子2人は第一順位の相続人ですが、息子たちが相続放棄をすると第一順位の相続人が初めからいなかったことになります。そうすると、第一順位の相続が「次」に行ってしまうのです。
亡き父はそれなりの高齢と言いましたので、その親も先にお亡くなりになっていると設定しましょう。さらに、亡き父には存命の弟がいるとします。亡き父とその弟は不仲でした。
息子たちが相続放棄をすると、第一順位の相続権は次に、第二順位である「亡き父の両親」に行きます。しかし先に述べたように、亡き父の両親もすでにいないため、第一順位の相続人は亡き父のきょうだい、つまり「亡き父の弟」です。
すると亡き父の相続人は、「母」と「亡き父の弟(亡き父とは不仲)」の2人になります(図表2)。
息子たちはもともと「遺産はすべて母親に」と考えていましたが、父の弟がどう考えるかはわかりません。相続人として亡き父の遺産を要求してくる可能性は十分に考えられます。
母親が父名義の自宅に住み続けるため自宅の名義を100%母親の分にするには、亡き父の弟と遺産分割協議をして、ハンコを押してもらわないといけません。
それまで兄夫婦との仲が円満で、ハンコも「いいよ、いいよ」と押してくれそうな人であればよいのですが、亡き父と不仲だった弟となると、母親との関係性についても分かりません。簡単にハンコを押してもらえるとは限りませんよね。良かれと思って行った相続放棄によって「母親がすべて相続」が叶わなくなるどころか、自宅を失う恐れもあるのです。
上の世代の方だときょうだいが多いですから、悲惨なことにもなり得ます。父方のきょうだいが多い上に、すでに亡くなっているきょうだいがいるとなれば代襲相続が発生して、その相続の関係者が増えてしまうことも実際にあります。
相続放棄は「なかったこと」にはできない
単純に母親に全部相続させたいがために子供が相続放棄をするのはよくあるケースです。しかし今回見てきたように、これをすると大変な事態になります。
相続放棄の効果は強力です。被相続人が亡くなったことを知った日から3ヵ月以内であれば難しくないのですが、安易に行うととんでもないことになりますから、本当に気を付けてください。後になって「やっぱりなかったことに」はできません。相続放棄を行うにしても、大した費用はかかりませんので、一度きちんと士業の専門科に相談することをオススメします。
【動画/相続放棄の悲劇:ミスったら悲惨ですよ!】
佐伯知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
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