●ドル円は約6年10ヵ月ぶりの円安水準に到達し、「悪い円安」を懸念する声が再び高まりつつある。
●悪い円安とはガソリン価格などの値上がりによって家計が圧迫され、日本経済に悪影響が及ぶこと。
●根本的に悪いのは円安ではなく原油や食品などの価格急騰、値上げへの1つの対処法は賃上げ。
ドル円は約6年10ヵ月ぶりの円安水準に到達し、「悪い円安」を懸念する声が再び高まりつつある
ドル円は4月11日の外国為替市場で、一時1ドル=125円77銭水準をつけ、2015年6月以来、約6年10ヵ月ぶりのドル高・円安レベルに達しました(図表1)。足元では、米連邦準備制度理事会(FRB)が金融引き締めの一段の加速を示唆する一方、日銀は金融緩和継続の姿勢を示しており、日米金利差がさらに拡大するとの見方が、ドル買い・円売りにつながっていると推測されます。
こうしたなか、円安の進行が日本経済に悪影響を及ぼす、いわゆる「悪い円安」を懸念する声が、再び高まりつつあります。円安の良い、悪い、については、2021年11月25日付レポート『良い円安と悪い円安について考える』で解説しましたが、日本は過去の輸出で稼ぐ構造から、近年では対外金融資産で稼ぐ構造へと変化を遂げており、円安の評価も変わってきていると考えられます。
悪い円安とはガソリン価格などの値上がりによって家計が圧迫され、日本経済に悪影響が及ぶこと
円安が悪いとされる主な理由は、次の通りと思われます。日本は原油や液化天然ガス(LNG)などのエネルギーのほか、大豆や小麦などの食品も輸入に頼っています。これらは基本的に外貨建て取引のため、円安が進行すれば、輸入コストが増加し、輸入企業の業績圧迫につながります。これらの企業がコストの増加分を価格に転嫁した場合、ガソリン価格や食品価格の値上がりという形で家計を直撃し、日本経済への影響が懸念されます。
一方、円安の進行は、輸出企業にとって、海外市場における自社製品の価格競争力を高め、業績の押し上げ要因となります。ただ、すでに多くの輸出企業が海外に生産拠点を移したこともあり、円安の恩恵は以前よりも小さくなっているとみられます。なお、この生産拠点の海外移転が、前述の輸出で稼ぐ構造を変化させた一因であり、実際、日本の貿易黒字は近年縮小しています(図表2)。
根本的に悪いのは円安ではなく原油や食品などの価格急騰、値上げへの1つの対処法は賃上げ
このように、円安は良い面と悪い面があるのですが、ガソリン価格の値上がりなどは、身近に感じられるため、悪い円安という声が、よく聞かれるようになったのだと思われます。ただ、根本的に悪いものは何かというと、それは原油価格や食品価格の急騰です。米利上げもこれに対応するものであることから、円安は結果的に生じるもので、おおもとの原因ではないといえます。
原油価格や食品価格の急騰は、コロナによる供給制約やウクライナ情勢の緊迫化などに起因しており、短期的な抑制が難しく、日本国内にも値上げの波が押し寄せています。こうしたなか、広く議論されているのが賃金の引き上げです。値上げに耐えうる賃金の引き上げで、個人消費増、企業収益増という経済の好循環を作るという考え方です。重要なことは、悪い円安というだけでなく、値上げの根本原因を見極め、対処していくことです。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「悪い円安」への懸念が強まるが…「悪い」のは円安なのか?【ストラテジストが解説】』を参照)。
(2022年4月12日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト