(※画像はイメージです/PIXTA)

勤続15年で長らく新人の教育係を任されてきたベテラン社員が新人女性に研修をしたところ、「指導が厳しすぎてついていけない」と上司にメールで辞めると訴えました。ベテラン社員は上司に呼ばれ、パワハラで訴えられかねないからと新人教育の役職を外され、自信を喪失し、体調を崩します。精神科医が著書『シン・サラリーマンの心療内科』で解説します。

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ゲーム依存の若者は人を殺して勝利を味わう

最近の京都アニメーション放火殺人や川崎の20人殺傷事件から、日本社会の光と闇の落差が広がっていると感じられないだろうか。犯人の突出した激しい殺意は、闇から現れる鬼の仕業と見える。だが、かつての日本の鬼たちはこれほどの殺意は抱いていなかった。鬼たちを育む闇の深さが今と昔では異なると思われるのだ。

 

例えば大江山の人食い鬼、酒吞童子 は、人は人を食わないと信じていた。ところが、源頼光の人が人肉を食うという鬼でもしないような横道に騙されて退治されてしまうのだ。あるいは安達ケ原の鬼婆も、まさか坊さんが約束を破るとは思わなかったがゆえに退治される。雪女も約束を守ると信じて結婚した夫の裏切りで子供と家を失い、去って行く。どこか物悲しくも、人よりはるかに律儀な存在であった。

 

かつて光と闇は相互に織りなす自然の現象で、闇はむしろ神聖な神をも宿すとも信じられていた。しかし今や化石エネルギーが作り出した明るすぎる照明の光とそれによってできる影は大きく乖離した。ひとたび闇に落ち込めば、そこから抜けることは難しく、より大いなる怒りを内在させた鬼と化すしかなくなっているように思える。

 

100万人という夥しい数の引きこもりがなぜ生まれるのか考察する必要がある。彼らの多くも、今どきの闇に引きずり込まれた一人ではないか。日向へと導いてくれる薄明かりも見つからないほどに闇は深く、濁っている。

 

光の当たる世界は、そこから外れた者にとっては到達困難な高みに見えるものである。例えば、何らかの理由で学校に行けず、あるいは会社に行けなくなった人たちが再び学校や会社に戻ることは必ずしも容易ではない。フリースクール、リワーク(職場復帰のリハビリ)、作業所、就労支援事業など復帰のステップとなる仕組みはきめ細かく用意されているのに、それとて適応できない人々がたくさんいるのである。

 

今どき多くの子供が塾に通い、進学校を目指す。仮に合格できても、次の受験に向けてレースが繰り広げられる。皆が走り続けているため一度後れをとれば追いつくことが難しくなる。社会人になれば、満員電車で長い通勤に耐えうる体力が必要で、相当の学力を要する法手続きにも気を配りながら、業績を上げるべく睡眠を削って働き続ける。いずれうつ病になり、前線から去ることになるかもしれない。

 

しかし、たとえ癒えたとしても同じ現場に戻ることは容易ではない。

 

私は今どきの高機能・高燃費社会が人の多様性を保証しているとは全く信じていない。むしろ便利さと効率の追求は、レールに乗らない想定外の事態に神経質となり、弱き者の排除へと向かう。決められたレベルに到達し、一定の条件を満たした者だけがゲートを通り、光の中に棲むことが許される。

 

どんな社会も勝ち組と負け組の格差を拡大する仕組みをある程度内包しているものである。しかし、一見平和で豊かな日本社会がむしろ深い格差の闇を抱えていると思えてならない。そこには勝ち得ない人々の大いなる怨念が渦巻く。

 

ゲーム依存する若者の多くは、バトルロワイヤル風の殺戮ゲームに浸りやすい。一番多く殺した者が英雄になれるストーリーの中で人を殺して勝利を味わい、恨みを晴らしてゆく。今どきの人の恨みはさほどに大きいのかもしれない。酒吞童子は言う。「鬼は恨みで人は殺さない。恨みで殺すは人の行う横道である」と。

 

遠山 高史
精神臨床医

 

 

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※本連載は遠山高史氏の著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

シン・サラリーマンの心療内科

シン・サラリーマンの心療内科

遠山 高史

プレジデント社

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