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経営者の仕事は「現場に出ること」ではない
経営者の仕事とは何でしょうか? 答えは「業績を生み出せる組織を作り続けること」です。
経営者は自分が動いて課題を解決するのではなく、従業員を動かして課題解決することを学ばなくてはなりません。経営者がいつも現場に出てしまったのでは、事業全体の把握やマネジメントができないからです。司令塔はやはり高いところに立って全体を見渡し、戦力の足りないところに人員を配置したり、今は攻めるとき・守るときなどの指令を下すスキルが必要です。
筆者はこういう意味で、経営者に必要なリーダーシップとは「人を通して課題を解決する力」だと言っています。
もう少し掘り下げて説明すると「リーダーシップの普遍の2軸」というのがあります。
リーダーとして成果を出している人たちの行動特性(コンピテンシー)を研究している人たちがいるのですが、その研究によるとEQ(人の感情レベルに働きかける力・スキル)とIQ(物事を体系立てて実行していく力・スキル)の両方を兼ね備えているリーダーは成果を出しやすいことが分かって来ました。
IQとは、具体的に言えばビジョンの設定、目標達成や進捗状況に対する関心、ルールの徹底、課題に向けてのバイタリティなどを指します。
EQは、人への気配り、自主性の尊重、コミュニケーション重視などのことです。
このIQとEQの関係は、足し算ではなく掛け算です。つまり一方だけが強くても、もう一方がゼロだとリーダーシップはゼロとなってしまいます。例えば、IQが高くてEQが低いと「仕事はできるが人望がない」リーダーとなります。EQばかり高くてIQが伴わないと、「人望はあるが仕事はできない」リーダーになります。
リーダーが2つの要素をバランスよく高めていくことで、健全な組織、力を発揮できる組織になっていけます。
外部関係者からも社長交代への理解を得ておく
従業員や株主など社内関係者に理解を得るのはもちろんのこと、金融機関や取引先など外部関係者にも社長交代への理解を求めることが大事です。
中小企業研究センターの調査研究レポート(『中小企業の事業承継に関する調査研究~永続的な成長企業であり続けるための事業承継~』)では、事業承継の成功企業・非成功企業とも社内関係者に事前の理解を得ていることは共通していますが、外部関係者については成功企業のほうが事前の理解を得ている割合が高く、より広範囲に目を向けて根回ししているとあります。
また同じレポートで、後継者の補佐役がいるのといないのとで事業承継の成否が分かれるとあります。非成功企業では「補佐役なし」と回答する割合が高くなっており、補佐役の重要性が分かります。
ただし、先代の補佐役をそのまま後継者の補佐役にすることにはメリットとデメリットがあります。メリットは会社の歴史を知っていることです。デメリットは先代の補佐役のほうが後継者より従業員や取引先に顔が利き、後継者がイニシアチブを取れなくなってしまう恐れがあることです。
会社の若返りという意味では補佐役も代替わりさせたいところですが、人材の限られる中小企業では後継者不在と同じく補佐役の人材不足があります。この点も含めて事業承継には十分な対策のための時間を確保すべきです。
引退後も、軌道に乗るまでは後継者をサポート
後継者に社長業を譲った後も従業員との関係や事業が軌道に乗るまでは、困ったときにいつでも助けられるスタンスでいなければ事業承継はうまくいきません。
従業員との関係がおかしな方向に行きだした…というとき、軌道修正ができるのは先代しかいないからです。その期間が半年なのか1年なのか、あるいはそれ以上かかるのかはケースバイケースですが、そう遠くない未来に必ず独り立ちできるときが来ます。それまでしばらくの間、温かく見守ってもらえれば後継者も従業員も安心できます。
たとえば、社長を正式に後継者に譲った直後は毎日午後の数時間だけ会社に顔を出し、相談しやすい状況を作り、1ヵ月後には2日に1回の出社、2ヵ月後は週に2回、3ヵ月後は週に1回…というように徐々にフェードアウトしていく方法を取るオーナーもいます。
一人で色々やりたい後継者でも引退した途端先代にまったく会わなくなるというのは、心細いものです。実際に一人で経営してみると、インターンのときにはなかった迷いや悩みが出てきます。そういうとき、先代にちょっと相談して意見をもらえると非常に助かります。
従業員のほうもときどき先代が顔を出してくれれば、後継者の愚痴もこぼせてガス抜きができます。引退後も従業員に慕ってもらえるというのは、経営者にとって嬉しいものです。
宮部 康弘
株式会社南星 代表取締役社長
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