小学校からの通塾には「共働き家庭の増加」も関係
小学校からの通塾が増えている背景には、親の働き方や生活スタイルの変化もあります。
現代は共働き家庭が増えています。厚生労働省の国民生活基礎調査の概況(2019年)では小学校の低学年でも、母親の7割が仕事をしています。働き方はフルタイムもあればパートタイムもありますが、父親が外に出て働き、母親が家にいて家族の世話をするという昭和的な家庭像は、過去のものになっています。
小学生は午後2~3時くらいには学校が終わり、下校します。親が家にいない時間帯に、子どもだけで留守番をさせるのは心配ということで、塾や習い事が子どもの居場所になっている側面もあるようです。
塾や習い事を掛け持ちさせれば、それだけ費用もかかりますが、「友達と通えるし、必ず大人(塾講師や指導者)がいるから安心」なのでしょう。私もこれまでに塾に通う親子をたくさん見てきましたが、塾に通わせているのに学力を伸ばしたい、学習習慣をつけさせたいという意欲も特に感じられず、ただお金で安心な居場所を買っているのでは、と感じるケースもありました。
また共働きの増加によって、家庭で親が子どもと向き合う時間も減少しています。
子どもは学校や塾から宿題を出されて帰ってきます。特に小学校低学年のうちは、子どもが自分一人できっちりと宿題をこなすのは難しいものです。しかし共働きの親の側も、宿題などの家庭学習に付き合う十分な時間をもてなくなってきています。
■とはいえ、子どもと向き合うには「時間」だけでなく「心の余裕」も必要
もちろん、中学受験を考えるような教育熱心な家庭は、親子で一緒に机に向かい、一緒に勉強をしている家庭も少なくありません。それはとても良いことです。
ただし、子どもは大人と同じように思考し、理解して学習を進められるわけではありません。何度も間違えたり忘れたりしながら、少しずつ理解を進めていきます。そういうときに大人の側に余裕がないと、「なんでそんなこともできないの?」「前にも教えたよね? 何回言えば分かるの」と責める口調になりがちです。
塾講師の立場からいわせていただけば、“できないことを叱る”のは、最悪の指導法です。そうした言動によって子どもの学習意欲が低下したり、苦手意識を植え付けてしまったりするケースは少なくありません。
本来、子どもの学習の理解度やスピードは子どもによって異なります。親は共働きで時間に追われ、職場でも効率よく結果を出すことを求められます。子育ても仕事と同じ調子で、テストの結果や偏差値アップといった分かりやすく手っ取り早い「成果」を求めてしまう傾向があります。時には、そうした親の行き過ぎた指導が、教育虐待になる場合もあります。