これからの時代、「従来の学力」は通用しなくなる
知識中心・暗記中心で、短い時間でより速く正解にたどり着くための従来の学力は、未来の社会では通用しなくなります。一定の知識やデータからすばやく正しい「解」にたどり着くという作業は、AI(人工知能)や機械のほうがずっと得意なのです。
現に、暮らしのなかにもどんどんAIを用いた技術が導入されています。人に代わって、AIやロボットに代替されていく仕事も増えています(図表1)。単純作業はもとより、飲食店のホールスタッフのような対人サービスもロボットに置き換えられようとしています。つい最近、調理、配膳、掃除、すべてをロボットが行う飲食店の実証実験が始まりました。そういう時代に突入しているのです。
野村総合研究所のレポート(2015年)でも、今後、日本の労働人口の約49%が、人工知能やロボットに代替可能と報告されています(図表2)。これはアメリカやイギリスに比べても高い割合になっています。
子どもたちが生きる「これからの社会」とは?
これから子どもたちが生きていく社会は、新しいテクノロジーによって構築された、私たち大人も経験したことのないものになります。
Mr.都市伝説の関暁夫氏がテレビで紹介し、一躍有名になった「ムーンショット目標」というものがあります。これは内閣府が公表している今後の社会の示唆であり、そこで掲げられている目標は、「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」となっています。その目標の背景と目指す社会として、次のような記述があります。
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【目標設定の背景】
●人生100年時代において、さまざまな背景や価値観をもったあらゆる年齢の人々が多様なライフスタイルを追求できる持続可能な社会(Society 5.0)の実現が求められている。
●さまざまな背景や価値観をもつ人々によるライフスタイルに応じた社会参画を実現するために、身体的能力、時間や距離といった制約を、身体的能力、認知能力および知覚能力を技術的に強化することによって解決する
【ムーンショットが目指す社会】
●人の能力拡張により、若者から高齢者までを含むさまざまな年齢や背景、価値観をもつ人々が多様なライフスタイルを追求できる社会を実現する。
●サイバネティック・アバターの活用によってネットワークを介した国際的なコラボレーションを可能にするためのプラットフォームを開発し、さまざまな企業、組織および個人が参加した新しいビジネスを実現する。
●空間と時間の制約を超えて、企業と労働者をつなぐ新しい産業を創出する。
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人間の能力拡張や、アバターの活動が実生活とリンクするという未来は、まるでSF映画のような話です。ですが、2050年といえば現在10歳の子が30代の終わりに差しかかる頃です。さほど遠い未来ではありません。
今の私たちには想像もつかない、国も言語の壁もないような本当のグローバル社会で、子どもたちは生き抜いていくことになるのです。
「生きる力」を培うには「国語力」が必要不可欠
そうした未来の社会で必要となる「生きる力」とは、どのようなものでしょうか。
それは、幅広い教養と深く思考する力、正解のない問題に粘り強く取り組む力、そして自分の考えを世界に向けて表現・発信していける力です。こうした力のすべての基本となるのが、日本語(母語)での思考能力です。だからこそ私たちは「国語」の指導に力を入れているのです。
グローバル社会で活躍するには、英語を自在に使えたほうが確かに有利でしょう。しかし、ただ英語ができるだけでは、いずれ便利な翻訳・通訳機械に代替されてしまいます。確固とした存在感をもって世界を相手に活動するためには、日本人としてのアイデンティティを基礎に、どの国の人とも対等に議論ができなければいけません。
当塾のある地域も、中国やアジア各国の国籍・ルーツをもつ子どもが増えていますが、日本の文化や歴史、わが国の伝統的な精神性などについてきちんと語れる日本人は、大人を含めてそう多くはありません。そこは母国の歴史や文化についてしっかり学んでいる諸外国の子どもたちとの差を感じます。
こういう話をするとナショナリズムに傾倒していると誤解されるかもしれませんが、私の主張はいわゆる国粋主義や、特定の主義・信条とはまったく関係がありません。どの国の人も家族を愛するのと同じくらい自然に、母国を愛しています。日本の場合、第二次世界大戦の影響が色濃く、母国愛について正面から語るのがタブー視されるような傾向があります。そうではなく、もっと自然に自分自身や自分の暮らす国や地域について知り、世界に発信できるようになるといいと思うのです。
そもそも、これだけ小さな島国が世界3位の経済大国でいられる理由に、しっかり目を向けたほうがいいと思います。英語やその他の外国語が話せなくても一生涯を幸せに全うできる、こんな国はほかにはそうそうありません。地理的に、大陸のように地続きではなく島国であること、また他国の資源や人材を上手に取り入れながら、独自の文化を形成してきたことが主な理由でしょう。
私は、生徒たちにもこの国で生まれ、この国で育ったことに誇りをもち、世界のどの国でも活躍できる人になってほしいと願っています。
大坪 智幸
株式会社花咲スクール 代表取締役、本部校教室長