衰退産業に身をおく中小企業は「次の一手」が必須
資金と人材の課題を克服するとともに変化をいち早くとらえる必要があることは、ほとんどの中小企業に共通です。なかでも衰退期の市場に身をおく企業は、この取り組みを優先的に行っていく必要があります。
市場は新しい製品の登場によって誕生し、製品の普及により成長期に入り、顧客が増えて売上と業績も伸びていく、という過程をたどります。そして製品がひととおり社会に行きわたると需要が頭打ちとなり、それ以上の成長が見込みづらい状態、いわば衰退期になるのです。携帯電話などは良い例で、持っている人が少ない時は飛ぶように売れますが、全員が1台ずつ持つ時代になるとそこから先は買い替えの需要くらいしか見込めなくなるものです。
また、衰退期の市場は需要が少ないため価格競争が起きやすく、利益率が下がりやすいという特徴もあります。このような状況では市場にはお金が入ってこず、「斜陽産業だな」「未来が期待できない」と思われるため人も来なくなります。
市場内で事業をしている企業も衰退していくしかありません。企業側は製品が売れず在庫が増えるのを避けるため、安売りするようになります。技術が進化し製造原価が下がるとさらに安売りが進み、売上・利益ともに減っていくのです。
この状態から抜け出すには、携帯電話がスマートフォンに置き換わったように、社会の変化や消費者が求めるものをとらえ、新たな魅力を持つ製品を作るしかありません。
新たな魅力ある製品を作り出せたとしたら、市場は再び導入期に戻ることができます。魅力ある製品は消費者の関心を引き寄せ、企業にはお金が入るようになり人材も集まってきます。衰退期にある企業はこれで、経営課題であるお金と人材の不足を克服することができます。
問題は、そのための準備と行動をいかに早くできるかです。成長期の市場にいる企業であれば、これから成熟・衰退期へ移行するまでにいくらか時間の余裕があります。
しかし、すでに成熟期にある企業には猶予がありません。衰退していくか、それとも再び成長に向かうサイクルに入れるかの分岐点が目の前に迫っているということです。
すでに衰退期にある企業の場合は待ったなしです。市場の衰退は製品の需要が減少しているということなので、売り先を増やしたり営業エリアを広げたりするための努力をしても、あまり効果は見込めません。変化やニーズをとらえてこれから伸びそうな新製品を作ったり、新たな市場に進出していくうえで手持ちの技術や知見が活かせるかどうか検討したり、そのような視点で事業全体の構造を見直すことが求められるのです。
新製品を作り出し、うまく導入期に戻ることができても安心はできません。さらにそこから利益が出るビジネスモデルや成長戦略を考え、戦略のために必要なお金や、人、設備などを手配するといったマネジメントが必要になります。すでに成熟期や衰退期にある企業であれば、過去に通ってきた道のため、それほど難しくはないかもしれません。
しかし本当に難しいのは、どうやって再び導入期に戻るかです。その方法を見つけることが中小企業の勝ち残りにつながるのです。
衰退の波からどうやって脱出するか
ニーズをとらえるにはどうすればよいのか、新たな製品はどうやったら作れるのか――多くの企業が壁にぶつかり、的確な打ち手が見いだせないまま衰退する市場で足掻くなか、この難易度が高い自力変革をやってのけている企業があります。プラスチックストロー業界のシバセ工業です。プラスチックストローは衰退産業の一つであり、シバセ工業も市場衰退の影響を受けて、生き残りに苦戦した過去があります。しかし、現在の社長である磯田拓也氏が入社してからは既存事業の強化や新規市場の創出に取り組み、徐々に業績は回復していきました。
衰退する市場では、績を維持し、生き残るだけでも至難の業です。しかし、シバセ工業は経営を立て直すだけにとどまらず、新たな市場を開拓することによって、再び成長する道を切り拓いたのです。
井上 善海
法政大学 教授
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