有望な役員・従業員を経営者に起用する
■相手②社内(社内承継)
「社内承継」とは、経営者の右腕および有望な役員・従業員を経営者に登用する手段です。「親族に後継者がいない」「親族に経営者としての資質がない」といったネガティブな理由や、「親族よりも安心して任せられる」というポジティブな理由で選ぶこともあるでしょう。
社内承継の場合、後継者候補の人柄やスキルを把握しているので、高い能力を持つ人材を選びやすいのがメリットです。社歴が長いなら経営理念や事業環境、自社の強みや課題などを理解しているので引き継ぎやすく、人選さえ間違えなければ従業員や取引先からの理解も得やすいに違いありません。
一方、経営者と役員は年齢が近いことが多く、いざ事業承継をしたものの、その後数年で同じような課題に直面する可能性があります。これでは、本質的な解決になりません。
中堅社員からの抜擢では、実務レベルに問題がなくても、経営能力に長けているかどうかは別の話です。早くから計画を立案し、後継者候補を育てていく必要があります。また、納得のいかない人選だと社内外から反発を招く可能性もゼロではありません。
何より、社内承継では有償もしくは無償で自社株を引き継ぎますが、後継者は買収資金や贈与税の納税資金を準備する必要があります。多くの場合、それだけの資金力はなく、資金面の負担は大きな壁です。
■相手③社外(社外承継)
「社外承継」とは、会社の外部から招へいした第三者場合の選択肢となります。
近年は上場会社でも社内ではなく、いわゆる「プロ経営者」を招き新社長に据えることは珍しくありません。中小企業でもそれは同じで、社外承継であれば幅広い対象から経営者の資質や能力のある人材を探し、事業を任せることができます。
親族内承継や社内承継の場合は経営権とともに自社株を引き継ぎますが、社外承継の場合は経営権だけを引き継ぐこともあり、その場合は先代経営者や親族が株主のままなので、後継者は多額の買取資金を用意する必要もありません。進め方によっては、事業承継のハードルを下げることができるのです。
ただし、現実はそう簡単にいきません。後継者が外部の人なので、それまで培ってきた理念や社風にマッチするとは限らず、そりが合わずに経営を放り出したり、思いもしなかった社内改革を断行した結果、社内の人間関係が崩壊したりする可能性があります。過去の実績や能力は客観的に把握できても、事業に対する熱意はどれほどなのかを見極めるのも難しいと言えるでしょう。
また、売上や利益がコンスタントに出ている会社なら後継者を見つけやすいでしょうが、年商が数千万円で利益はトントン、赤字の会社だと、手を挙げる人は減ってしまいます。地域の経営者の集まりでは、高齢の社長が「うちの会社を任せたいんだけど」と仲間内に打診するそうですが、なかなか見つからないそうです。