(※写真はイメージです/PIXTA)

教育への関心が高まり、小学校低学年からの塾通いも珍しくない時代となりました。ただし一口に「塾」といっても、学習サービスの内容や質はかなり大きな差があります。「大手の塾なら安心」「とりあえず通わせるだけでも、少しは学力がつくだろう」と気軽に考える保護者も少なくありませんが、残念ながら実態はそうではないようです。塾講師として実際に指導している花咲スクール代表・大坪智幸氏が、塾業界の現状を解説します。

「成績が上がらない子」がいても「当然」のシステム

最近は、塾のなかでも「個別指導」が人気を博しています。

 

大手フランチャイズ系個別指導塾のホームぺージ等を見ると、「一人ひとりの理解度に合った学習」「オーダーメイドの指導」「自分のペースで進められる」など、今時の個性や多様性の時代に合った魅力的な宣伝文句が並んでいます。

 

しかし個別指導塾こそ、本当に気をつけなければならないものだと私は思っています。

 

入塾説明会へ行くと、塾は「うちだからできる独自のシステム」といって、学校のカリキュラムや個々の理解度に応じて、各教科・各単元のテキストやプリントが作成されるしくみを説明します。初めて説明を聞くと「こんなことができるなんて、すごい!」と驚かれるかもしれませんが、あれも実はさほど特殊なものではありません。当塾でも使用していますが、そうした教材は専用のプログラムで作成されており、似たような種類のソフトウェアはたくさん存在します。

 

本来、個別指導は、ものすごく勉強が嫌いで誰かがずっと横についていないとまったく何もできないという場合か、授業はいらないから質問だけしたい、そういう生徒に向いた指導法です。最近この業界では“個別最適化”などといかにもスマートな言葉で語られるようになっていますが、今のインスタント講師が中心の個別指導のインフラでは、本当に個々に最適な指導などそもそも不可能なのです。

 

さらに、個別指導で私が最も問題だと思うのは、個々に合わせた進度なので、学習の進まない生徒はカリキュラムが終わらない場合があることです。学期ごとの定期テストにも全然間に合いませんし、場合によっては学年末までにその学年の単元が終わらないこともままあります。当然、成績はまったく上がりません。

 

それでは、講師と生徒は塾で何をしているのか。まじめに取り組んでいる塾もあるので、あくまで一例と前置きします。個別指導の時間は、塾へ行って講師の大学生と雑談をしているだけ、というのは同業他社責任者から相談された悩みです。

 

個別指導塾の講師たちが本部から指導を受けるのは、教科の教え方ではなく、コーチングです。コーチングというのは、言葉掛けやコミュニケーションによって相手の自主性や能力を引き出す人材開発の手法のことです。進んだ指導法に聞こえるかもしれませんが、彼らが行っているのは、相手が心地よいと思う相づちを打ち、承認欲求を満たすような雑談をするだけです。良くも悪くも生徒を居心地よくさせて、成績が上がらなくても退塾させないようにするのが目的なのではないかと考えています。

 

個別指導だけで学力を伸ばそうと思うのであれば、指導内容やカリキュラムまで、保護者がしっかりチェック・管理をしなければ効果は上がりません。私がもし保護者の立場であれば、学力も向上せず、大学生のお兄さんお姉さんと楽しく会話をするだけという塾には、1円たりとも費用を出したくありません。

 

 

大坪 智幸

株式会社花咲スクール 代表取締役、本部校教室長

 

 

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※本連載は、大坪智幸氏の著書『デタラメ受験戦争 失われた「学びの本質」』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

デタラメ受験戦争 失われた「学びの本質」

デタラメ受験戦争 失われた「学びの本質」

大坪 智幸

幻冬舎メディアコンサルティング

知育と徳育の両面から指導すれば、子ども一人ひとりの生きる力を引き出せる。 「塾屋」が提言する学びの本質とは? 学習塾を経営し自ら教壇に立って指導をする著者は、現在の受験本位の教育は本当の意味で子どものために…

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