「認知症」と「もの忘れ」…4つの決定的違い
認知症は高齢者がかかる病気として知られています。高齢になると誰もがかかるわけではありませんが、出現率を年代別でみると65歳で3%程度なのが、80歳では20%、90歳では60%と2、3人に1人の割合でかかっている計算になります。
誰でも高齢になれば大なり小なり忘れっぽさを自覚するものですが、認知症の場合はもの忘れに加え、見当識障害(時間や場所、人物の認識といった基本的な情報を忘れること)や、判断力の低下も伴い、進行するにつれ社会および自宅内で自立した生活が難しくなっていき、介護を要する状態に至ります。
もの忘れがみられた際、それが老化によるものなのか認知症によるものなのかを見分けるには、次の4点に着目するとよいでしょう(図表1)。
【①進行するか、しないか】
認知症は時間の経過とともに脳細胞が死滅していく進行性の病気です。私は初期、中期、後期、終末期という4段階で分類しています。例えば同じもの忘れでも、老化によるもの忘れは緩やかに進行するものの重度になることはありません。それに対し、認知症によるもの忘れは次第に進行し、判断力の低下を伴います。
また、進行するにつれ幻覚を見るようになったり、寝たきりになったりします。認知症の各段階の症状についてはのちほど詳述します。
【②体験の一部を忘れるか、全部を忘れるか】
老化によるもの忘れは、体験の部分的な記憶の欠落であるのに対し、認知症の記憶障害では、体験そのものを忘れてしまうのが特徴です。
例えば、「昨日は縁日に行ってかき氷を食べた」とします。老化によるもの忘れの場合は、縁日に出かけてかき氷を食べたことは覚えていますが、イチゴ味だったかメロン味だったかはよく覚えていない、食べた屋台がどのあたりの場所だったかは細かく覚えていないという程度です。ところが認知症では、縁日に出かけたことも、かき氷を食べたことも忘れてしまうのです。
【③もの忘れの自覚があるか、ないか】
老化によるもの忘れの場合は、自分が忘れっぽいという自覚があるのに対し、認知症の場合は自覚がないのが一般的です。「自分はもしかしたら認知症かもしれない」と不安になり受診してくる人にはまず、認知症の診断がつくことはありません。
ただし、MCIと呼ばれる軽度認知障害の場合はあります。
一方、すでに認知症に移行している場合はそうした病識がなく、受診も家族に伴われてとか、家族に言われてというケースが大半です。
【④日常生活に支障をきたすか、きたさないか】
老化によるもの忘れの場合は、細かい記憶が抜けるだけであり、時間や場所などの認識は保たれています。また、忘れていると思っていてもヒントを与えられれば思い出せることも少なくありません。よって日常生活が送れないほど支障をきたすことはないのです。しかし認知症の場合は進行性であり、中期、末期と進むにつれ時間や場所の見当がつかなくなり、生活に支障が出てきます。