人の心に寄り添うことは、人にしかできない
例えば、クライアントの細かい要望を聞くことや相手の思いを反映させることなどは、AIよりも人間のほうが得意だといえます。ほかにも、自動化や機械化のできない仕事、念入りなコミュニケーションが必要な仕事、Aという問題が起こったらBをするといった「1対1対応」では通用しない仕事、総合的な判断が求められる仕事、クリエイティブな能力や世界観を必要とする仕事などは、今のところ「人間向き」です。
また、数値では表せない技術をもっている職人の手仕事は、AIには無理だろうと思います。その人にしかできない技術があれば、AIでは太刀打ちできません。さらに、AIは人の心を動かすスピーチをすることもできませんし、人を育てることもできません。
医療の分野でいえば、少なくとも終末期医療などのケアは人間にしかできないはずです。AIは患者の余命を割り出すことや薬を出すことはできても、心のケアはできないからです。
数カ月の余命のなかで、患者がいかに穏やかに自分の人生と向き合えるのか、どれだけ相手の不安や悲しみに寄り添えるのかにフォーカスし、自分の知識や経験、技術の限りを尽くすのは人間にしかできないことです。これからの人間に求められるのはそういった仕事になるはずです。
AIには「失敗から学び、次に活かす」ことはできない
そしてもう一つ、AIにできないことがあります。
それは、失敗から学ぶことです。
そもそもAIに失敗はありません。さらにAIに失敗したケースの情報を入力すれば、同じ失敗を未然に防ぐことができるようになります。でも、その失敗を応用したり、はね返したりすることはできないのです。
「人は神ではない。誤りをするというところに人間味がある」※2
※2 BEST TiMES「あの名言の裏側 第5回 山本五十六編」
こう語ったのは、太平洋戦争で連合艦隊司令長官を務めた山本五十六です。
誤りをしない人間はいない。誤りをしてこそ、人間らしさやその人らしさがにじみ出るのだ、ということです。
山本五十六はアメリカ留学の経験があったため開戦前からアメリカの国力を理解しており、「日米戦に勝算なし」と言って、最後まで太平洋戦争の開戦に反対していました。
しかし、日米交渉が破綻してアメリカと軍事力で向き合わなければならなくなったとき、連合艦隊司令長官だった彼はその責任において最大限の成果をあげなくてはいけませんでした。
つまり、あえて失敗の選択肢を取らねばならなかった現場のトップだったといえます。部下思いのリーダーとして知られていた山本五十六はこんな言葉も残しています。
「どんなことでも、麾下(きか)(部下の意味)の失敗の責任は、長官にある。下手なところがあったら、もう一度使え。そうすれば、かならず立派にしとげるだろう」※3
※3『四人の連合艦隊司令長官』吉田俊雄著 文春文庫
例えば組織で誰かが失敗をしたとき、AIであればこの人間は組織にこんな損失を出したのだから給料は何%カット、あるいは解雇すべきだという結論を導き出すかもしれません。でも、山本五十六はむしろ「もう一度使う」と言うのです。
失敗をしたからこそ、次はそれを活かせるだろうと信じて、もう一度任せてみる――こんな思い切った判断ができるのは人間だけです。機械的に考えればもう一度やらせるのは間違いかもしれませんが、その人が失敗から学ぶことができるのであればそれは間違いとはいえないのです。
山本五十六のいう「人間味」とは、レジリエンスのことを指しているようにも考えられます。困難な状況にもかかわらず、それに適応していく力や、逆境や困難にも押しつぶされることなく強靭にはね返す力です。こうした力はAIにはありません。
近年で、レジリエンスが最もよく表れた例は、僕は東日本大震災後の復興ではないかと思っています。残念ながら津波の被害状況を見誤って甚大な被害が出たわけですから、やはり国としては大失敗だったと思います。しかし、その後の復興に向かう力や支え合う力は、まれにみるレジリエンスの集大成でした。
今後さらに自動化や機械化が進んでいくなかで、僕はAIとの共存を否定するつもりはまったくありません。ですから、今後はますますAIにはないしくじりや失敗を活かすという考え方が重要になってくるだろうと思っています。
郭 樟吾
脳神経外科東横浜病院 副院長
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