失敗すると、次の失敗を予防できるようになる
「ハインリッヒの法則」という考え方があります※1。これは「失敗学」という分野を作った東京大学名誉教授の畑村洋太郎氏が自著で紹介していた法則ですが、畑村氏は「ヒヤリ」と「ハット」という分かりやすい言葉で説明しています。
※1 『失敗学のすすめ』畑村洋太郎著 講談社文庫
1件の重大災害の裏には、29件のかすり傷程度の軽災害があり、さらにその裏には怪我まではしないものの「ひやりとした」「はっとした」という体験が300件存在しているという法則です。
労働災害や事故は、それくらいの確率で顕在化しているというのです。ですから「ヒヤリ」としたり「ハット」した体験やしくじりはそのまま放置せず、その段階できちんと背景や原因を突き止めて問題をあぶり出しておけば、失敗になる前の段階で防ぐことができるということです。
「ヒヤリ」とか「ハット」したことは、現場でなかったことにされたり、隠されてしまったりすることもあります。でも、失敗が許されない現場こそ、そこに至る前に皆で「ヒヤリ」「ハット」を共有して失敗の芽を潰しておくことが大事です。
逆境をはね返す力「レジリエンス」を養おう
多くの人が失敗を経験し、そこから立ち上がっています。その経緯はそれぞれ違いますが、初めからずっと順調だった人は一人もいません。成功に至るまでには、たくさんの失敗と再起があったのです。
失敗から立ち上がる力や逆境をはね返す力は「レジリエンス」と呼ばれ、今、ビジネスや教育でも大きく注目されている能力です。物事がうまくいかなくても簡単には折れない力とか、自分をありのまま肯定する力ともいわれています。
僕自身はといえば、こうしたレジリエンスはもともと低いほうだったと思います。何かあるとすぐヘコみましたし、自分に対する自信も強くありませんでした。でも、いくつものしくじりや失敗を経験して、そこからは大いに学べるものがあることを知り、しくじりは怖くないと分かったからこそ、立ち上がる力もだんだん強くなっていったのだと思います。
日本人には僕のようにもともと自信がないという人が多いようです。
日本人の自己肯定感がダントツに低いことを表すデータがあります。2018年に独立行政法人・国立青少年教育振興機構が報告した調査です※2。
※2 国立青少年教育振興機構「高校生の心と体の健康に関する意識調査報告書〔概要〕 ―日本・米国・中国・韓国の比較―」
日本・米国・中国・韓国の4カ国の高校生へのアンケートで、「私は価値のある人間だと思うか」という質問に「そうだ」「まあそうだ」と回答した日本の高校生の割合は44.9%で、4カ国で最も低い数値でした(韓国83.7%、米国83.8%、中国80.2%)。
半分以上の高校生が「自分は価値のない人間だ」と思っているということです。
国際的な学力調査などを見る限り、日本の高校生は毎年ランキングの上位に入っていますから、世界的に見ても成績は優秀なはずです。それなのに、日本の高校生たちは自分に自信をもてないのです。もちろん、日本人ならではの謙虚さの表れなのかもしれません。
「失敗は悪いことばかりではない」と気づけたなら…
ただこれ以外でも、日本人の自己肯定感は他国に比べてダントツに低いことが分かっています。さまざまな理由が考えられますが、一つ思うのは、こうした高校生たちもしくじりや失敗から学べることに気づけば、自信やレジリエンスが徐々についてくるのではないかということです。
失敗は悪いことばかりではないと気づけば、物事を見る角度がほんの少し変わってくるはずです。失敗したときにヘコんでいるだけではなくて、この失敗から学べばいいのだと気づけば、次の可能性が出てきます。要は考え方の問題です。
よく使われるたとえですが、コップに半分の水が入っていたとき、「半分しか入っていない」と思うか「半分も入っている」と思うかという話があります。半分しか入っていないととらえる人は、しくじったときはすぐに後ろ向きになってしまうかもしれません。しかし半分も入っているととらえる人は、うまくいかなかったことでも前向きにとらえ、次に活かしていけると考えられます。
自分が後ろ向きだと思う人は、普段からあえて前向きに物事を考えるようにするといいと思います。物事にはいろいろな面があるのですから、ネガティブな面だけに注目するのではなく、これから活かせる点、修正したら良くなる点を探してみるのです。
失敗した直後というのはショックも大きく、どうしても後ろ向きになってしまいがちです。それは仕方がないことですから、すぐに立ち直ろうと無理はせず、しばらく時間をおくのも有効です。
郭 樟吾
脳神経外科東横浜病院 副院長
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