失敗はだれでも避けて通りたいもの。ましてや若く人生経験が少ない人は、失敗を「この世の終わり」のように受け止めがちです。しかし、失敗しなければ得られないこと、失敗がその後の人生を支える大きな糧になることも、たくさんあるのです。厳しい医療現場に立ちながら、多数の人材育成を行ってきた脳神経外科医が、一歩を踏み出すのをためらう人にアドバイスします。

「自分なりの必勝パターン」で、もっと行動しやすく!

受験のしくじりによって自分の身の丈を知ることができた僕は、実は浪人時代を経たことでもう一つ手に入れたものがあります。それは「自分なりの必勝パターン」です。

 

浪人が決まったとき、僕は高校時代のやり方のままではダメだと考え、必死になっていろいろな勉強法を試してみました。この方法ではうまくできないと分かったら、違う方法を試し、それもうまくいかなければ、また別のスタイルを検討してみる。それを繰り返した結果、自分なりに最も効率的な勉強法や勉強スタイルを身につけることができたのです。この勉強法を手に入れたことで、翌年、無事にすべての志望校に合格できましたし、これは現在までずっと役に立っています。

 

医師は医師国家試験に合格したあとも数々の認定試験を受けるのですが、病院の業務もありますから、限られた時間のなかで効率良く勉強しなければいけません。しかし僕はこの勉強法(必勝パターン)があったので効率良く勉強ができたのです。

 

こうなると、もう自分だけの「虎の巻」を一つ手に入れたという感じです。僕は効率の良い勉強法でその後の試験はすべて一発合格しています。

 

勉強のスタイルは人それぞれで違いますが、最も大事なことは「自分なりの必勝パターン」をもっているかどうかです。それが分からない人ほど試験前に焦り、一週間仕事を休ませてほしいなどと言いますが、それだけ時間があっても結局は落ちることがあります。

 

僕の受けた認定試験や資格試験ではたいてい4~5割程度の合格率ですが、半分の人が合格するということは、基本的なことをしっかりやれば受かるということです。そう前向きにとらえられるようになったのも、自分なりの必勝パターンができていたからです。

 

確立された必勝法があることが有効なのは間違いありません。それぞれに違ったやり方があり、自分なりのやり方をもっておくと、いちいち億劫だとか面倒だとか考えなくてもいいので、次の行動を起こしやすくなります。

 

大学受験にはしくじったけれど、それによって一生ものの勉強法を手に入れたのですから、僕はかなり得をしたと思っています。

逆風が教えてくれた、人間関係の大切さ

失敗したときや逆境にあるときには苦しい思いをするものですが、そのなかでこそ学ぶものがあります。誰にでも、またどんな職業にもあることだと思いますが、僕は医師になってから二度ほど、つらい逆境に陥りました。一度目は国内留学をしていた時期、二度目は、2018年に父が院長を務める東横浜病院(現在の勤務先)に移ったときです。

 

当時の僕は新しいものに対しては数字(結果)をとにかく出さないとまずいと思い込んでいました。功を焦ってチーム医療の精神が欠けていたため、孤立し、院内の雰囲気を非常に悪いものにしてしまいました。

 

僕はひたすら一人で自分自身と向き合いました。自分はどうすれば良かったのか、これからどうすれば周りの人は受け入れてくれるのかを毎日、問い続けたのです。

 

そこでもう一度初心に戻り、ゼロからやってみようと考えました。スタッフの信頼を得るために人の何倍もの努力をしようと、病院に貢献する気持ちで誰よりも働くように心掛けました。そうすると、周囲の反応がガラッと変わったのです。

 

こうして、人の信頼は黙っていても得られるものではない、結果としてついてくるものだという教訓を実感したのです。

 

僕はいろいろな挫折を経験してきましたが、途中で初心に戻ることができたのは、やはりそれまでのしくじりの経験があったからだと思っています。浪人や留年の経験がなければ国内留学のときに立ち直れなかったかもしれませんし、国内留学のときのつらい経験がなければ、病院でトラブルになったときに途中で「あ、このままいくとまずいぞ」と気づくことも自分の行動を振り返ることもできなかったはずです。

 

途中で気づかないままだったら、その先には厳しい現実が待っていたはずです。そしてどこかでポキッと折れてしまったかもしれません。

 

今は医師としてだけでなく経営者としても病院を見ていますが、この逆境の時期は自分にとって大きなターニングポイントになりました。「しくじりの引き出し」が自分を救ってくれた、そして強くしてくれたのだと僕は考えています。

 

イーロン・マスク氏はスペースXでの打ち上げ失敗やテスラでの開発難航などで大きな借金を抱えていましたが、こんな言葉を残しています。

 

「暗闇のような日々の中で、絶望は、頑張ろうという強烈なモチベーションにつながる」(※1)

 

※1 『世界をつくり変える男 イーロン・マスク』竹内一正著 ダイヤモンド社

 

彼がテスラを創った目的は「CO2ガスを20%削減するため」であり、スペースXを創る目的は「再利用ロケットで宇宙旅行の低価格化を目指すこと」でした。常人にはとても思いつかない高い理想ですが、実現が難しければ難しいほど、それを見返してやろうというモチベーションも大きくなるのかもしれません。

 

そんな彼の前では「失敗」など取るに足らないもので、いつでもやり直せるものに映るのでしょう。

 

どんな人の人生でも、まさに「暗闇のような日々」が不意に訪れることがありますが、それはマイナスばかりとは限りません。逆境はその人を強く柔軟にしてくれることもあるのです。

 

 

郭 樟吾

脳神経外科東横浜病院 副院長

 

 

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郭 樟吾

幻冬舎メディアコンサルティング

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