「マイクロバイオータの状態」が疾患予防に繋がる
■マイクロバイオータの状態を「治療」する時代が来るかもしれない
マイクロバイオームはヒトゲノムの200倍の数があるという話をしました。さらに、ゼノバイオティクスの種類も数万種類あり年々増加していて、その組み合わせは無限です。しかし、近年の遺伝子医学の発展は目を見張るものがあります。マイクロバイオータとゼノバイオティクスの相互作用についても、いずれは解明されていくことでしょう。
ヒトマイクロバイオームの研究はまだ端緒を掴んだばかりです。最近の研究では、腸内細菌のゼノバイオティクス代謝を分子レベルで理解することで、これらの活動を操作して健康増進に役立てることができる可能性があると分かってきました。
どのような菌株が、どのような酵素を作り、どのような生理的活性を持つのか、さらにはその異常がどんな病気と繋がるのかを調べる研究は、近年急速に発展しており、近い将来まったく新しい形の医療が発展する可能性もあると言われています。
つまりマイクロバイオータの状態を「治療」することにより、慢性疾患を予防したり治療したりすることができる時代が来るかもしれないのです。
実際にマイクロバイオータの状態が違うと、がんになるリスクが変わるという研究や、抗がん剤の治療効果に違いが生じてくるという研究も出てきています(※4,5)。いずれ、マイクロバイオータを治療することによりがんの発症を抑制することができるというのも夢見物語ではないのです。
まだまだ、これからの研究によるところが多いですが、そのような可能性が見えてきたことは、私たちに希望を与えてくれます。
※4 参考文献
The microbiome and human cancer
G. D. Sepich-Poore, L. Zitvogel, R. Straussman, J. Hasty, J. A. Wargo and R. Knight
Science 2021 Vol. 371 Issue 6536
※5 参考文献
Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors
B. Routy, E. Le Chatelier, L. Derosa, C. P. M. Duong, M. T. Alou, R. Daillere, et al.
Science 2018 Vol. 359 Issue 6371 Pages 91-97
■「腸内環境を保つこと」は健康状態と密接に繋がっている
では、そういう先の話ではなく、今の時点で私たちにできることは何でしょうか?
現代社会は、地球がこれまでに経験したことがないくらい多くのゼノバイオティクスで溢れています。体内に蓄積されるゼノバイオティクスを少しでも減らす努力は大切ですが、個人のレベルでできることは限られているでしょう。
しかし、マイクロバイオータの研究から分かってきたことは、マイクロバイオータを今よりも健全な状態にすると、単に「腸活」とか「便通を良くする」というレベルを超えて、自分自身の身体を慢性的な不調から救い、さらには子孫を守ることにも繋がるということです。
今回は、マイクロバイオータ(腸内細菌叢)がいかに私たちの健康状態に密接に関連しているかということを、特にゼノバイオティクスとの関係からお話ししました。そして、体内にできるだけゼノバイオティクスを蓄積しないようにすることは、身体の慢性炎症を抑えるためにも重要な一つのアプローチ方法なのです(【⇒関連記事:「腸活」はただ“便通が良くなる”だけじゃない…慢性疾患の予防と「腸・肝臓」の深い関係】)。
次回はさらに範囲を広げて、マイクロバイオータと慢性疾患との関係についてお話ししたいと思います。
さまざまなアレルギー性疾患や自己免疫疾患、過敏性腸症候群、自閉症やうつ病など、21世紀になってから、異常に発症頻度が増えている疾患があります。これを「21世紀病」と呼ぶ人もいます。そして、これらの疾患が急増してきた原因の一つにマイクロバイオータの乱れが関係している可能性があるという話です。
そして、マイクロバイオータを健全な状態にするためにはどうすればいいのかについても考えていきましょう。
小西 康弘
医療法人全人会 小西統合医療内科 院長
総合内科専門医、医学博士
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