ヒトの腸内細菌はゼノバイオティクスを代謝する
■ヒトが「食物繊維」を分解・吸収できるのはマイクロバイオータのおかげ
マイクロバイオータが、食事成分、環境汚染物質、医薬品などの形で摂取された多くのゼノバイオティクスの化学構造を変化させることは、すでに1950年代には確認されていました。
これらのゼノバイオティクスの種類は数万種類もあり、年々増加しています。マイクロバイオータと相互反応は実に多様で、大半のことはまだ分かっていません。生理的に重大な結果をもたらすにもかかわらず、ゼノバイオティクス代謝を媒介する特定の腸内細菌株、遺伝子、酵素については比較的わずかしか分かっていません。
マイクロバイオータにはさまざまな酵素を合成する設計図が存在します。その多くがヒト自身にはなく微生物だけが持つものです。ヒトとマイクロバイオータの代謝が組み合わさることで、ヒトだけでは合成されない代謝物や特有の作用を持つ酵素が生成され、ヒト体内での生体活性が大きく変化する可能性があります。
一番分かりやすい例としては、食物繊維の分解・吸収です。ヒトは食物繊維を分解する酵素を持っていませんが、食物繊維を分解する酵素はマイクロバイオータの一部の菌種が作ってくれます。そのおかげで私たちは食物繊維を分解し吸収することができるのです。
■太りやすい人、太りにくい人…「体質の差」にもマイクロバイオータが関与
さらに、臨床研究により、マイクロバイオータによる代謝反応には顕著な個人差があることが分かっています。
まだ完全には解明されていませんが、一般的にはファーミキューテスやバクテロイデスといった偏性嫌気性菌が優勢ですが、個人によって、マイクロバイオータの組成には大きなばらつきが見られ、それが個人の体質の差として現れます。
たとえば、その組成の違いによって、食事から吸収できるエネルギーの量が変わってきます。同じだけのカロリーを取っていても吸収率が変わることで、「太りやすい体質」や「太りにくい体質」ができるということです。
誰一人としてまったく同じマイクロバイオータを持っていません。マイクロバイオータが、私たちの「体質」を決めているのです。顔つきや指紋がすべての人で異なるように、マイクロバイオータの状態は一人ひとり異なり、それが各個人の体質や健康状態を決めているといっても過言ではありません。
これを、ゼノバイオティクスとの関係で見てみると、同じゼノバイオティクスでも、個人のマイクロバイオータの状態が異なれば反応が変わってくる可能性があるのです。
ある人にとっては、ある特定のゼノバイオティクスがマイクロバイオータでうまく解毒される場合もあれば、逆に、その人のマイクロバイオータの状態によってはかえって毒性を強める可能性もあるということです。具体的にどういうことかについては後で説明しましょう。