工業化学物質や汚染物質への代謝
■ゼノバイオティクスの「有害性」が変わる
マイクロバイオータが汚染物質や工業化学物質の代謝に対してどのような役割を果たすのかということへの関心は高まってきていますが、具体的にどのような菌株の、どのような酵素によって、どのように代謝されるのかということについてはまだ分かっていないことが多いです。
しかし、微生物の活動がこれらの化合物の毒性や生物学的な作用を変化させることは確かです。従って、ゼノバイオティクスの安全性を評価する際には、単にその有害性を実験室レベルで研究しても限界があり、マイクロバイオータとの相互作用によってどれほど有害性が変化するかを考えることがとても大切だということです。
■有害性を高めた実例:中国の「メラミン混入粉ミルク事件」
マイクロバイオータとゼノバイオティクスには相互作用があるということですが、それがいつもいい方向にだけ働くとは限りません。
一つの例として、さまざまなプラスチックの生産に使用される工業化学物質であるメラミンをマイクロバイオータが代謝し、ヒトにおける毒性を高めることが分かっています。常識的に考えれば、このような樹脂の原材料が体内に大量に入るということは考えられませんが、とある事件から明らかになりました。
中国のメラミン混入粉ミルク事件については、マスコミでも大きく報道されたので覚えておられる方もいると思います。2008年に中国で、乳児用粉ミルクにタンパク質の含有量をごまかすためにメラミンが添加されるという事件が起こりました。その結果、30万人の子供が腎臓結石を引き起こし、少なくとも6人が死亡しました。
その後、メラミンがどうして腎臓結石を起こしたのかを調べるために、マウスを使って研究が行われました。結果、マイクロバイオータがメラミンを脱アミノ化してアンモニアとシアヌル酸を生成し、このシアヌル酸が腎臓毒性を誘発したと明らかになりました。化学物質とマイクロバイオータが予想できないような化学反応を起こしたのです。
この場合は、マイクロバイオータが作用することで、より毒性の高い有害物質が発生したということになります(※2)。
※2 参考文献
Koppel, N., et al. (2017). "Chemical transformation of xenobiotics by the human gut microbiota." Science 356(6344).