(※写真はイメージです/PIXTA)

配偶者亡きあと、財産が自宅不動産に偏っていることから、遺産分割のために「わが家」を売却せざるを得ないという、つらい問題が起こることがあります。そのようなケースの救済措置のひとつとしてできたのが「配偶者居住権」です。いったいどのようなものなのでしょうか。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が解説します。

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配偶者居住権を活用したほうがいいケース

 相談内容 

 

夫が亡くなりました。遺産は自宅不動産とわずかな現預金です。相続人は妻である自分と、2人の子どもですが、じつは子どもたちとはいろいろな確執があり、不仲な関係です。

 

相続に当たっては、おそらく子どもたちは法定通りの遺産分割を求めると思われ、そのためには住み慣れた自宅を手放さざるを得ません。

 

そんなとき、「配偶者居住権」を活用することで、自宅に住み続けることが可能になると聞きました。いったいどのような方法なのでしょうか。また、配偶者居住権の活用は、都市部の不動産価格が高い地域でないと、効果が得られないのでしょうか。

 

 回 答 

 

 

活用すべき典型的な例としては、まさに相談のような、自宅不動産以外に相続財産がない場合や、配偶者と子どもが不仲あるいは疎遠である場合が考えられます。

 

たとえば、配偶者である夫が亡くなり、相続財産は自宅と少しの現預金だけだとします。もし妻が自宅を相続すると、ほかの相続人に財産はほとんど残りません。自宅をもらったため「現預金もほしい」とは言い出せず、相続後の生活が苦しくなることも考えられます。

 

しかし、配偶者居住権を設定すると、配偶者は住み慣れた住居不動産で生活を続けることが可能です。ほかの相続人との遺産分割協議にもよりますが、老後の生活資金として、その他の預貯金等の相続や取得ができる場合もあります。

 

地域としては、都市部かどうかというより、むしろ、現金や預貯金などの換価できる財産と、すぐには処分しにくい自宅不動産とのバランスになるといえるでしょう。

 

詳しくは法務省のホームページなど参照にされるといいでしょう。

 

配偶者居住権を主張するには「不動産登記」が必要?

 相談内容 

 

夫が亡くなりました。現在暮らしている自宅に住み続けるために、配偶者居住権を主張したいと考えています。活用するには、不動産登記が必要なのでしょうか?

 

 回 答 

 

不動産登記が必要です。

 

配偶者居住権は、登記をしなければ、相続人以外の第三者に対して、配偶者居住権を持っていることを主張できません。

 

また、前提となる相続登記(被相続人から相続人への所有権移転登記)が必須となります。

 

配偶者居住権の設定の登記の申請は、居住建物の所有者を登記義務者とし、配偶者居住権を取得した配偶者を登記権利者とする共同申請によることとなります。

 

配偶者居住権の設定の登記を申請するには、前提として、被相続人が所有権の登記名義人である居住建物に対し、相続や遺贈を原因とする所有権の移転の登記がされている必要があります。

 

いずれにしても遺言がない場合は、遺産分割協議などをもとに、まずは相続登記を行っておく必要があるといえます。

 

配偶者居住権の設定登記の登録免許税の金額は「建物の固定資産税評価額×0.2%」で計算することができます。現場の実感として、配偶者居住権の登記は増えているように思われます。

「配偶者居住権」のメリットと注意点

配偶者居住権を活用すると、自宅不動産の権利を「使う〈住む〉権利」と「その他の権利」に分け、配偶者とほかの相続人が、別々に相続できるようになります。子どもが自宅の所有権を相続しても、配偶者は配偶者居住権(「使う(住む)権利」)で住み続けることができ、所有者ではないという理由で家から追い出されることはありません。

 

配偶者居住権とは、家の所有権を「家に住む権利(配偶者居住権)」と「配偶者居住権の付いた所有権」の2つに分けるという仕組みです。2つに分けることによって、家の価値が「家に住む権利(配偶者居住権)」と「配偶者居住権付いた不動産所有権」に分かれます。抵当権等のついた建物と同様、売買しづらくなるというデメリット(配偶者居住権を得る側にとってはメリット)があります。

 

なお、配偶者居住権自体は売却も譲渡もできません。配偶者だけに認められる権利なので、その他の人は権利を行使できないのです。ただし、合意解除・放棄等によって消滅させることは可能です。

 

●配偶者居住権の成立要件

 

成立要件は、下記の2点です。

 

①配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと

 

②その建物について、配偶者に配偶者居住権産を取得させる旨の遺産分割、遺贈または死因贈与がされたこと

 

令和2年4月1日以降に亡くなった方の相続の案件から設定が可能です。

 

また、配偶者居住権を認められるのは、文字通り、同居していた配偶者のみであり、別居している配偶者や、内縁の配偶者には認められません。

 

 

近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

 

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本記事は、司法書士法人 近藤事務所が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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