(※写真はイメージです/PIXTA)

ある女性が残した遺言書の本文には印鑑がなく、その代わり、封筒の外側と封印に押されていました。このような場合、法律では遺言書の有効性をどう判断するのでしょうか。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が実例をもとに解説します。

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厳重な封書に捺印はあるが、遺言書には捺印がなく…

 相談内容 

 

姉が亡くなりました。

 

遺言には、相続財産のすべてを妹である私に譲るとの記載がありましたが、遺言書の本文に押印がありませんでした。その代わり、遺言書は厳重に封書されており、その封印や封筒の外側には姉の捺印がありました。

 

ほかのきょうだいは「遺言書の本文に捺印がないので無効だ」と主張しています。

封筒部分の捺印で、自筆証書遺言を有効とした事例あり

 回 答 

 

きょうだいの方には遺留分がありませんので、もし遺言が有効な場合は争いになりそうな遺言内容ではありますが、下記のような最高裁判所判例が存在します。

 

平成6年6月24日  最高裁判所第二小法廷  判決 

062760_hanrei.pdf (courts.go.jp)

遺言書本文の入れられた封筒の封じ 目にされた押印をもって民法968条1項の押印の要件に欠けるところはないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

 

つまり、遺言書本体と封筒を一体とみなし、封筒部分の捺印により自筆証書遺言を有効とした高等裁判所の判決を支持した最高裁判例です。

 

実務上の家庭裁判所での検認においても、封筒付きの遺言については、封筒部分も遺言の一部として記録を取り、家庭裁判所での検認を証する書面と合綴されます。おそらくこの判例を意識したものと思われます。

 

とくに紛争性のない自筆証書遺言の検認では、遺言自体の開封、未開封は重要視される場面は少ないですが、封印までされている遺言については、家庭裁判所での検認の場まで開封は控えた方がいいかもしれません。

 

遺言は要式行為ですので、要件をひとつでも欠けたら即無効が原則です。しかし、自筆証書遺言を用いる際は遺言者はこの世にいませんので、やり直しがききません。このため極力、遺言の全体を解釈したり、有効であると判断をしやすいように裁判所も認める傾向があるようです。

 

とはいえ本件は、遺言書本文に押印があれば、そもそもこのような論点や争いにもなりませんので、やはり遺言書への押印は極めて重要な要件といえるでしょう。

 

*本件は業務上の経験と個人的な見解とに基づき記載しておりますので、内容の正確性、法的整合性等ついては一切の保証をできかねます。各相続のケースでは各専門家の指導の下、個別具体的な判断お願い致します。

 

 

近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

 

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本記事は、司法書士法人 近藤事務所が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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