病原性ウイルスの「致死率」と「感染力」
感染症を引き起こすさまざまな病原性ウイルスには、インフルエンザや新型コロナ、ヒト免疫不全ウイルス、天然痘、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルスなど、多くのものが存在します。
じつはウイルスには、インフルエンザウイルスのように誰もが名前やおもな症状を知っているものもあれば、ヘルペスウイルスのようにほぼ全員が感染しているのに実態はあまり知られていないであろうウイルスもあるのです。ここでは、人間の感染症の原因となる代表的な病原性ウイルスを個別に取り上げ、その素顔をくわしく紹介しましょう。
まずは、図表を見てください。これはさまざまな病原性ウイルスの「致死率」と「感染力」を一覧表にしたものです。縦軸が致死率で、その感染症にかかった人のうち何%が命を落とすかを表します。横軸は感染力(伝播〈でんぱ〉力)で、1人の感染者が平均で何人を感染させるかを示しています。
致死率の高い病原性ウイルスによる感染症としては、鳥インフルエンザ(H5N1型)、エボラ出血熱、MERS(中東呼吸器症候群)、天然痘などがあります。この表には載っていませんが、狂犬病の致死率は発症した場合はほぼ100%で、未治療のHIVも致死率が80%もあります(治療中の場合の致死率は数%に抑えられます)。致死率が高い感染症は、当然怖い病気です。しかしこれらの病気は、天然痘を除くと感染力はあまり高くありません。そのため、感染症が発生しても、適切な治療や感染予防の対策を取ることで大流行を抑えることができます。
一方、感染力が高い病原性ウイルスには麻疹や水痘があります。表に載っていないものでは、ムンプスウイルスによるおたふく風邪の感染力も約12人と非常に高いです。こうした感染症は大流行を起こしやすいので、致死率は低くても多くの人が感染すれば、亡くなる人数は当然増えることになるでしょう。
新型コロナウイルス感染症では、当初(2020年頃)に流行したアルファ株などと呼ばれたタイプに対して、その変異タイプであるデルタ株は感染力が大きく増えたことがこの表からわかります。
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