新型コロナウイルスの蔓延は、多くの方に「ウイルスとの共存」を強く意識させるきっかけとなりました。世界には多種多様なウイルスが存在しますが、一方で、一般にはあまり知られていない性質や特徴を持つものもあり、正しい知識を得ることは極めて重要です。※本記事は、川口寧氏監修の書籍『感染症時代の新教養 「ウイルス」入門』(実務教育出版)を抜粋し、再編集したものです。

社会を大きく変えるパンデミック

感染症が世界的に大流行することをパンデミック(世界的大流行)といいます。人類はさまざまなパンデミックを何度も経験してきました。近代以前に発生したパンデミックで有名なのは、ペストと天然痘です。ペストはペスト菌(細菌)、天然痘は天然痘ウイルスが病原体です。ここではペストの話をしましょう。

 

ペストは、ネズミなどの小型齧歯類(げっしるい)に寄生するノミによって媒介されます。ペスト菌を保有するノミに刺されることで体内に入り込んだペスト菌は、リンパ節内で増殖し、2~7日ほどの潜伏期間の後に突然、高熱や悪寒、頭痛、鼠径部(そけいぶ)などのリンパ節に痛みを伴う腫れが発生します。適切な治療を受けられないとペスト菌は全身へ広がり、肺炎を起こしたり、全身に出血傾向が現れたり、死に至ることもあります。

 

ペストのパンデミックは6世紀、14世紀、19世紀の3回の記録が残っています。特に有名なのは14世紀のパンデミックで、中央アジアで始まって中国に伝播し、元朝末期の中国の人口を半減させたそうです。それがシルクロードを通って中東のイスラム王朝、ヨーロッパで猛威を振るいました。ヨーロッパでの死者数は当時の人口の3分の1に当たる2500万人とも、3分の2の5000万人とも推測されています。全身の出血傾向によって皮膚が黒く変色し、死に至ることから、ペストは黒死病と呼ばれて恐れられたのです。

 

『死の勝利』(ルネサンス期のフランドル地方の画家ブリューゲル〈父〉作)。 黒死病(ペスト)で死んだ人々の死体を死神が集めて回る様子を描いている。
『死の勝利』(ルネサンス期のフランドル地方の画家ブリューゲル〈父〉作)。
黒死病(ペスト)で死んだ人々の死体を死神が集めて回る様子を描いている。

 

パンデミックによって人口が急減したため、ヨーロッパの都市部では労働力が不足し、賃金が上昇しました。その結果、農村の農民が都市に流入し、農奴に依存してきた従来の荘園制が崩壊していきました。また、それまで社会を支配してきた教会の権威は、ペストの脅威を防げなかったことから急速に衰えました。

 

さらに、新しい人材の流入・活躍と、誰でも死ぬ黒死病の前では身分の貴賤など意味をなさないという思想から、それまでの封建的身分制度が解体して、人々は新しい価値観を創造するようになっていきます。それが、同じ14世紀にイタリアで始まり、ヨーロッパ中に広がったルネサンスという文化的復興につながったとされています。このように、パンデミックは単なる災厄を越え、社会を大きく変える力も持っているのです。

 

 

川口 寧
東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター長

 

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感染症時代の新教養 「ウイルス」入門

感染症時代の新教養 「ウイルス」入門

川口 寧 監修

実務教育出版

本書は、「ウイルス」を病気を起こすという悪玉的側面だけでなく、ウイルス感染症が引き起こす社会現象、社会変化が引き起こすウイルス感染症、感染することによって宿主に益をもたらす善玉ウイルス、調教ウイルスによる病気の…

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