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時代の変化とともに疾患も医療も変化する
患者の受診先選択について、中島(1998)は、病気が重症化する可能性が高いと考える患者は、小規模病院ではなく、設備が整っていて医療スタッフの充実した大病院を選択する。
また、患者は重症化する可能性が高いほど、大病院を選択することを指摘している。したがって、患者が重症化を考える場合、また、桜田院長の話にあるように他の病気の可能性を考える患者は、大学病院や大病院を選択することになる。
桜田院長は受診選択について、性別での違いも感じている。「女性は、知人や家族などのまわりから情報をとる。一方、男性は、クチコミや評判では選ばず、医療機関からの紹介で来院するケースが多い。男女では情報収集が違うのかもしれない。」と話す。
実証研究結果では、診療所の循環器疾患患者において、性別は受診先選択に影響を与えていなかった。この研究では、慢性疾患で長期的に通院する患者を対象にしている。
対して、所沢ハートセンターでは、循環器疾患の中でも緊急性の高い患者が対象となっている。つまり、同じ循環器疾患でも、緊急性の高い急性期の状況と慢性期の状況では、性別により情報収集が異なり、受診先選択が異なる可能性が考えられる。専門特化型病院を対象とした研究や、緊急性の高い疾患を考慮した受診先選択の研究は、今後の課題と言える。
■おわりに
谷脇循環器医長は、「ただカテーテル治療をしていれば良いとは思っていない。患者の不安をいかに無くし、満足度を高めることができるかを常に考えている。例えば、患者が違和感を訴えて来院し検査で問題がない時でも、今の状態を正しく理解してもらい、命に関わるかどうかを詳しく説明する。患者が正しく病状を理解してくれた場合、夜中に不安で来院することがなくなる。自分の症状に対しておかしいと思わなくなる。」と話す。
痛みだけではなく不安の解消は、患者の行動変容を促し、患者の信頼を得るために重要な要素である。したがって、医師は患者の不安と期待を理解したうえで、医療サービスを提供する必要がある。
桜田院長は、長年心臓血管治療に専門特化して、地域で治療に専念している。以前勤務していた病院から数えて30年間診続けている患者がいるが、その家族の方が受診をしてくれた。その女性は、「30年前に義兄を助けてくれた。命を救ってくれた。だから、私は先生を信じて今度は主人を助けてもらうため、この病院に連れてきた。」と話す。
30年前に救命した患者の家族が、今も信頼して家族の命を守るために来院している。これこそが信念を持ち、心臓血管治療にまい進してきた結果である。時代の変化とともに疾患の傾向は変わり、患者に対する医療の提供が変化している。新しい時代に向けていまから何を準備すべきか、桜田院長は先を見据えている。
「遠くない未来においては、AIの発展と医療レベルの進歩により、治療が変わる可能性が高い。例えば、10年後、注射をしたら治療はすべて終わる時代がくるかもしれない。人の寿命も延びており、寿命が100年110年の時代を迎えると高齢の概念が変わってくるであろう。遺伝子治療やゲノム医療がさらに進み変化するなか、循環器疾患はもちろん医療自体がガラリと変わる時代がやってくる。
新しい時代に、我々はどうシフトしていくのかをいま考える必要がある。その時、自分は遅れないようにしないといけない。その人に合わせたテーラーメイド医療になる時代、自分は何ができるのかをいまから考えるべきだ。」と、ミライを思い熱く語っていた。
地域における心臓血管治療のパイオニアとしてリードしてきた桜田院長は、この先の医療の進化を考えて次の時代の在り方をすでに見つめている。
杉本ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長