問題④ 長年指摘されている「地域間格差」
長年指摘されているもう1つの特色は、地域間格差が大きいことだ(『中国経済「新常態」への移行――地域間格差是正の遠い道のり』『巨大な経済体である中国の「地域別の動向」とは?』参照)。31省市区別の2021年実績で、1人当たり可処分所得が最も高い上海78027元は最も低い甘粛22066元の3.5倍以上、都市部平均47412元は農村平均18931元の2.5倍。
世帯平均資産では2019年、北京は新彊の7倍、沿海部461万元に対し内陸部198万元(招商銀行)。中国経済誌界面調査によると、地域間格差は教育進学率や平均余命率などより、収入、預金額、公共インフラ面で顕著。中でも収入格差が最も大きく、金融、ハイテク、外国貿易が集中する沿海部と、東部から移転してきた生産性の低い製造業の受け皿になっている中西部の格差が大きい※3。さらに、南北格差が「共同富裕」実現の足かせになるとの指摘がある※4。
※3 2021年9月7日付、2022年1月20日付中国経済誌界面
※4 2021年9月人民大学国家発展戦略研究院報告
省市区を南部16と北部15に分けると、2020年、製造業、サービス業とも伸び率は南部が北部の約2倍。北部は生産、投資、研究開発面で「3大停滞」に陥っており、南部への人口流出も大きく、2020年人口普通調査(普査)によると、過去10年の人口増加率は南部8.5%に対し北部2%で、高齢化が加速。新型コロナの影響も湖北を中心に北部が大きい。
問題⑤ 中間層の急速な成長・拡大
近年、中国では中間層が急速に成長していると言われる。国家統計局長は3人世帯年収10万〜50万元を中間層とし、約4億人、1.4億世帯と発言※5。
※5 2021年8月31日付中国経済周刊
他方2020年、習近平国家主席や党中央の貧困解消達成宣言に反して、李克強首相は(中規模地方都市の平均月家賃も賄えない)月収1000元に満たない貧困層がなお6億人以上いると発言。
統計年鑑によると、低収入層(2020年1人当たり平均可処分所得7869元)と低中間層(同16443元)を合わせた総人口の40%、約5.6億人の1人当たり平均年可処分所得が12156元(7869元と16443元の平均)、月約1000元となる。李氏の6億人発言はこれを指したものだろう。
公式には民生部が2022年第一四半期記者会見で、2021年末、生活保護対象(低保)ぎりぎりの低保辺縁人口431万人、子育てなどの支出で生活が苦しい支出型困難人口433万人を低収入人口に分類し、その結果、低保と合わせた低収入人口は5800万人強になったと発表している※6。
※6 中国当局は貧困を最低限の生活も賄うことが困難な「絶対貧困」、最低限の生活はできるが社会平均よりは著しく低い「相対貧困」、その他の「低収入人口」に分類。国家統計局が定める貧困線は時代とともに引き上げられ、2020年4000元(現在の為替レートで1日約1.7米ドル相当)。2020年11月、貴州が「省内全ての貧困県が貧困の帽子を脱ぐ」と宣言し、かつて全国に832あった国家級貧困県が全て貧困から脱却した(『中国の貧困対策――貧困の「帽子」を脱がない地方』参照)。
2022年2月に発出された「中央1号文件」※7は、例年通り、貧困に密接に関連する農業、農村、農民の三農問題を主題とし、「食糧安全を保障し、多くの人々が再び貧困に陥る(返貧)という事態を発生させないことがボトムライン(底線)」であることを強調したが、パンデミックを契機に経済が減速する中、ネット上では、「これはすでに返貧が発生しているということ」「そもそも多くの人がなお貧困から脱却できていない状況で、返貧はあり得ない」「当局が問題はない(没事)というのは問題があるということ(有事)、問題が小さい(小事)は問題が大きい(大事)、当局が大事と言う場合は今後に備えるという意味だ」などの声が聞かれる。
※7 党中央・国務院が毎年第一に発出する重要政策文書で、2004年以降、毎年「三農」問題が主題となっており、党中央が農村問題を重視していることを示す代名詞とみられている。
次回は、「共同富裕」が出てきた背景と具体的論点を探る。
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