中国の貧困対策――貧困の「帽子」を脱がない地方

発展途上国の経済成長は、貧困削減・所得格差是正に役立つのか? 新興市場への投資を検討する際、やはり理解しておきたいこのテーマ。財務省OBで、現在、日本ウェルス(香港)銀行独立取締役の金森俊樹氏が、中国を例に詳細分析する。今回は、矛盾をはらむ中国の貧困対策を見ていきたい。

政府目標は20年までに「貧困を完全になくす」

2016年3月の全国人民代表大会(全人代)で採択された第13次5カ年計画(2016-20年)では、20年までに一人当たり所得を倍増させる目標と合わせ、貧困を完全になくすことが目指されており、特に1千万人を貧困地域から移転させるための財政負担として、向こう5年間で6千億元をコミットしている。具体的には、全国に貧困対策重点地域を592設定し(うち西部地域が375、中部217、2014年末時点)、優先的に貧困対策予算を投入しようとするものだ。


李克強首相も、全人代での政府活動報告の中で、第12次5ヶ年計画期間(2011-15年)中に農村貧困人口を1億人強減少させたとするとともに(上記のこれまで発表されてきた数値との整合性は不明)、改めて第13次5ヶ年計画期間中に貧困を完全になくすと表明している。

 

ただし、貧困対策に財政資金を投入することについては、以前から、資金が全く別の用途に使われ政策の実効が挙がっていないこと、多くの地域で、すでに経済が良くなって貧困から脱していても、なお「貧困地域」という「帽子」は脱がずに補助金を受け取り、それを貧困救済以外に使用して政治面での業績にしているといった構造的でやっかいな問題がある。貧困地域に指定されると、毎年平均数千万元、地域によっては5億元、6億元という、当該地域財政収入の何倍もの補助金を受け取ることができるためだ。

貧困重点地域の指定が「吉報」となる矛盾

この関連で、やや遡るが、2011年11月に発生した面白い事例がある。貧困重点地域に指定された湖南省新邵県武陵山片区で当時、「国の貧困重点地域の仲間入りに成功したことを熱烈に歓迎、地区は国家が貧困と闘う主戦場に~新邵共産党委、人民政府宣伝部」と題した写真が微博(ウェイボー:中国最大のSNS)に掲載され、ネット上で「貧困重点地域に指定されたことが、どうしてめでたいのか」といった批判的な書き込みが多く寄せられた。共産党委や県宣伝部は承知していないことだったとしたが、貧困重点地域に指定されたことが中央より県に伝達された際、県のウェブサイトには、特大喜讯(大変な吉報)と記載されていたことも明らかになった。

 

その後、新邵県は国務院弁公室が発表した貧困地域リストには入っておらず、本件をめぐって声高に貧困であることを主張した同県の対応、一連の混乱が影響した可能性が指摘された。同様の事例は、その後習政権下でも生じており、習主席がそれを知って激怒したとの情報も伝えられている(2015年9月1日付東方網他)。

 

貧困地域は経済発展を志向する一方で、貧困という帽子は絶対に手放したくないという自己矛盾的な心理を有した存在となっている。こうした状況下で、貧困からの明確な退出ルールを設けるべきとの指摘、またそのためには、指定にあたっての客観的かつ公正な基準が不可欠であるとの指摘が出されてきている。

 

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Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) 独立取締役

1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。 2015年、NWB(日本ウェルス)の独立取締役に就任。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

著者紹介

連載中国の例に見る「途上国の経済成長と貧困削減・所得分配の関係」

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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