世界平均より大きい収入格差、資産格差も急拡大中
中国のあるエコノミストは、中国の収入格差は世界平均より大きく、資産格差はそれよりは低いが急速に拡大しているとし、各国を以下の4つに分類している。
①収入格差、資産格差とも比較的小さい先進国(ジニ係数※1が収入0.4以下、資産0.7以下。日本、イタリア)
※1 0〜1の範囲で格差の程度を示す。数値が大きいほど格差が大きい。0は完全な平等(中国で言う平均主義)、1は1人の独裁者が全ての富を支配している状態。
②収入格差も大きいが、それ以上に資産格差が顕著な先進国(米国)
③「格差の罠」に陥っている途上国(一般に途上国は発展とともに格差は拡大した後縮小するが、格差が極めて大きいため「中所得国の罠」に陥る。インド)
④収入格差、資産格差とも拡大しているが、制御可能な水準にある途上国
そのうえで、中国は上記の④に入るとしている※2。ただ、以下のような問題がある。
※2 任泽平「中国収入分配報告-現状与国際比較」2022年1月5日付新浪財経掲載
問題① 国家統計局の所得ジニ係数
中国国家統計局が推計している所得ベースのジニ係数は、サンプルの偏りで格差が過小評価されているなど様々な問題が指摘されているが(『低すぎる?中国国家統計局が公表する「ジニ係数」への疑念』『拡大する中国の所得格差、その実態は?』参照)、それでも過去20年、一貫して国際的に警戒水準と言われる0.4を大きく超える0.46〜0.49で推移(図表1)。
国家統計局は以前から、ジニ係数は定期的に公表する経済統計ではないとして、不定期に記者会見の場で質問に答える形で明らかにしている。2021年9月、国務院新聞弁公室の「全面小康白書」発表記者会見の場で、国家統計局長は2020年0.468と公表。2008年のピーク0.491から低下している点が強調されたが、2019年0.465からは若干上昇。貧困層が新型コロナの影響をより強く受け、格差が拡大していると考えられる。
国家統計局は統計年鑑で世帯人口を所得に応じて5段階(20%ずつ)に等分類した統計を発表しているが、2022年1月、2021年経済実績発表記者会見で、下位世帯40%、中間世帯20%の1人当たり可処分所得伸びが各々9.8%、10.7%と全体伸び9.1%を上回り、2021年格差は縮小したと述べている。
問題② 中国内外の民間推計
中国内外のシンクタンクなども様々な推計をしている。例えば2013〜20年平均、所得上位層20%の所得水準は下位層20%の10.64倍(世界不平等データベースWID)。資産格差はさらに大きく、投資可能資金1000万元(約1.8億円)以上を保有する者が2021年、総人口約14億人の0.2%にあたる約300万人、資産ベースのジニ係数は2000年0.599から2020年0.704へ大幅上昇、最富裕層1%が国全体の資産の31%を保有しているなどだ(招商銀行、クレディスイス)。
反中色の強い多くの海外華字誌は以前から、2014〜17年に中国の外貨準備が1兆ドル減少した原因の1つは、トップ500の権力エリート(権貴)が海外に資産を移したためと伝えている。2020年来、中国では個人消費の低迷が確認されているが、米国のコンサルティング会社、Bain&Company推計では、中国の奢侈品市場(定義の詳細は不明)は2020年前年比48%増、2021年36%増で2019年の約2倍の規模、2025年には世界最大の市場となることは間違いない。
問題③ 捕捉されていない「隠性収入」
さらに腐敗汚職から発生する違法収入(黒色収入)や、必ずしも違法ではないが、規範化されていない不透明な取引に伴う収入や、規則の未整備で捕捉されていない収入(灰色収入)といった隠れた収入(隠性収入)がある(図表2)。発改委主管のシンクタンク中国改革基金会国民経済研究所は2012年、27省市区5756世帯を対象にした標本調査を実施し、それを基に経済モデルで黒色・灰色収入を全国推計。
それによると2011年6.2兆元(対GDP比12%)。最近の推計は見当たらないが、同研究所が行った2005年、08年の調査でも対GDP比は12〜14%。腐敗汚職の取り締まり強化や規則整備で状況が改善する一方、ネット社会で新たな隠性収入が発生している可能性を勘案し、仮に対GDP比に変化がないとすると、2021年(GDP規模114兆元)なお13兆円以上。同研究所によると、こうした収入は特権やそれに伴う腐敗に関係していることが多いため、大半は権貴に集中している。そうとすると、格差はみかけよりはるかに大きいことになる。
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