習近平政権が繰り返し唱える、成長速度を抑え経済構造の高度化を目指す「新常態」への移行。そこにはどんな必然性があり、どんな困難性があるのか。今回は、根の深い問題である中国経済の地域不均衡について見ていきたい。

大きな困難が伴う農民工による起業

農民工調査によれば、東部地区の農民工は1.64億人(1.6%増)、中部5800万人(1.6%増)に対し、西部は5100万人(3.1%増)と、西部地域の伸びが最も高い。なかでも西部地域の本地農民工(各調査年度において、6ヶ月以上、出身地域周辺で農業以外に従事している農村労働力)は4.1%の伸びだ。出身地または同じ省内で働くことを選択する農民の増加傾向が続いている。

 

これには次の要因が指摘できる。需要側要因として、中央が相対的に後れた中西部の開発を重視し、東部沿海地区の労働集約型製造業が発展余力の大きい中西部への移動を進め、そこでの投資・雇用機会が増加していること、供給側要因として、農民も生活費が安く、また分居の必要もない地元での就業を希望するという事情である。

 

 

外出農民工(6ヶ月以上、出身の農村を離れて都市部で就業している者)の平均生活費は944元、うち居住関係費が445元と約5割を占める。出稼ぎ先で住宅を購入している者は1%にすぎない。中西部の農民工の収入は東部より平均約10%低いが、生活費はそれ以上に安い。

 

このように、農民工が出身地に帰る兆しはあるが、中国経済が抱える地域不均衡の根は深い。中国では、「鬼城」「空城」と呼ばれる、建設はされたが全く人が住んでいない住宅や、利用されていない商業施設が話題になって久しいが、これらは主として中西部に多い。需要がないにも関わらず、農地収用、開発業者への転売による土地譲渡収入に依存する地方政府が、成長率を上げる最も手っ取り早い方法として、開発を続けた帰結だ。そこで地方政府は、農民工が故郷で就業することを奨励しているが、まだまだ地方には適当な産業、就業機会がない。

 

中央政府は「大衆創業・万衆創新」、大衆による起業・イノベーションをスローガンにし、李首相も2015年6月の国務院常務会議で、農民工が里帰りして起業することを支援すると発言、起業に絞った減税や借入金への利子補給を行うなどの措置も示された。しかし、一定の資金やノウハウを持った企業家ですら、なかなか新企業を立ち上げることに成功しない中で(国家工商局によると、零細企業の「死亡率」は非常に高く、立ち上げられてから5年以内になくなる企業が6割近い)、そうした資金もノウハウもない農民工の起業にはより大きな困難が伴う。

新シルクロード構想に伴う中西部の開発も注目

他方で、地方の住宅は都市部に比べ安く、値上がりを期待して購入する農民工も多い。農民工は東部沿海部の大都市で働く一方、住宅は故郷で購入するというミスマッチが生じている。これは、土地財政に依存する地方政府の思惑にも合致するが、結局、地方政府の土地開発→地方での供給過剰→不動産市況の低迷→土地リスクに敏感な農民工が購入に慎重→市況低迷という悪循環に繋がっている。

 

今後、「一帯一路」――新シルクロード構想が中西部の開発を促し、その農民工吸収力を高めることが期待されている。農民工の地域バランス変化の兆しは、とりあえずは、新型都市化計画で掲げられている、中西部で1億人の都市化を図るという目標実現の方向に沿ってはいるが、中西部で然るべき産業、就業機会が生まれてくるのかはなお未知数だ。
 

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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