(画像はイメージです/PIXTA)

父が書いた「全財産を長男へ」との遺言書。ところが、遺産と負債は同額で、しかも億単位です。ほかのきょうだいは遺留分の請求を考えていますが、プラスとマイナスの資産がある場合、どのような分割になるのでしょうか。長年にわたり相続案件を幅広く扱ってきた、高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が実例をもとに解説します。

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相続財産は貸しビル・預貯金・有価証券、そして…

太一さんは、3億円の貸しビルを持っていますが、妻の陽子さんに先立たれたため、ビルの最上階に1人で住んでいます。

 

太一さんには、長男の太郎さん、次男の次郎さん、長女の花子さんがいます。

 

太一さんは、長男の太郎さんに貸しビルを継いでほしかったことから、「太一さんの財産はすべて長男・太郎に相続させる」という自筆の遺言を作成しました。

 

その後、太一さんは天寿を全うし老衰で亡くなり、遺言は裁判所で検認がなされました。遺産は、貸しビルのほかに預金が3000万円、株式や投資信託が3000万円ありました。それから、貸しビルを建てるために銀行から借り入れたローンや過去にした投資の失敗による借金が3億6000万円残っていました。

 

 太一さんには貸しビル3億円、現金3000万円、株式や投資信託3000万円の遺産があり、遺言書には「貸しビルは長男に相続させる」とあった。
親族関係図 太一さんには貸しビル3億円、現金3000万円、株式や投資信託3000万円の遺産のほか、3億6000万円の借金があった。遺言書には「全財産を長男に相続させる」とあった。

 

この場合、太郎さんと次郎さんと花子さんは、遺産をどう分けたらよいでしょうか。

 

①太一さんの書いた遺言書は次郎さんと花子さんの遺留分を侵害しているので、次郎さんと花子さんは、それぞれ遺産の6分の1である6000万円の遺留分侵害額請求ができる。

 

②太一さんの書いた遺言書は次郎さんと花子さんの遺留分を侵害しているので、次郎さんと花子さんは6000万円の遺留分侵害額請求ができるけれども、3億6000万円の借金のうち、3分の1である1億2000万円ずつ支払義務を負うこととなる。

 

③太一さんの書いた遺言書は次郎さんと花子さんの遺留分を侵害していないので、次郎さんと花子さんは遺留分の請求はできないけれども、3億6000万円の借金のうち、3分の1である1億2000万円ずつ支払義務を負うこととなる。

 

④太一さんの書いた遺言書は、次郎さんと花子さんの遺留分を侵害していないので、次郎さんと花子さんは、太郎さんに何も請求ができないが、借金の支払い義務も負わない。

 

連載を読んでくださっているみなさんのなかには「前回の『「お兄ちゃんだけずるい!」資産家父の〈不公平過ぎる遺言書〉に弟と妹は…』と同じ内容の問題じゃないか」と思った方もいらっしゃると思います。前回の問題と比較して考えていただくために、今回の問題は、わざと前回の事例と同じ設定にしてあります。

 

しかし、前回の事例と異なる点が2点あります。発見された読者の方は鋭いです。前回の記事を読んでいない方は、今回の事例と比較して、前回の記事を読んでください。

 

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