■次世代が継ぎたくなる「会社の魅力」とは?
では、次世代が事業を継ぎたいと思える魅力(価値)は何で表されるでしょうか? それは、次の二つです。
①事業を継ぐことで「経済的な」価値の面で幸せになれるか。
②事業を継ぐことで「精神的な」価値の面で幸せになれるか。
子供はこの二つの面から、事業を継ぐことに、他の職業、たとえばサラリーマンや公務員として就職することや自ら起業することよりも優位性があるかを見極めるのです。
この点は、子供を後継者とする親族承継でなく、幹部社員を後継者とする社内登用の場合であっても同じです。社内登用の場合も、後継候補者はサラリーマンのままでいくか、経営者になるかを判断します。
私自身も親が事業をしていましたので、就職活動時にそのように考えた記憶があります。ただし、私は親不幸なことに家業を選ばずに就職してしまいましたが…。
■企業の魅力は「その企業が蓄えている資産」から生まれる
私は企業の魅力は、企業に蓄えた様々な資産から生まれるものだと考えます。継ぎたいと思う後継者がいないのは、すなわち企業としての「経済的」、「精神的」な価値を生み出す資産の蓄積がないので、後継者が継ぐことに対しての魅力を感じなくなっているということです。いくら老舗で先祖代々続いている家業でも、「経済的」、「精神的」な資産の蓄積が感じられないと、事業を継ぐという人生を左右する大きい決断を下すことは難しいのです。
企業には「経済的な」面から評価される、目に見える資産と、「精神的な」面から評価される、目に見えない資産とがあります。
たとえばバブル経済真っただ中のときのように、大企業も中小企業も儲かって儲かって仕方がなくて、潤沢な資産によって経済的に満たされていれば、親族の誰しもが事業を継ぎたくない、ということにはならないでしょう(現にそういった企業の場合、黙っていても後継者のほうから継ぎたいと言われますし、むしろ複数の子供の間で社長のポジションが取り合いになるケースもあるくらいです)。
また、私が税理士の仕事を始めた頃はよく「我が子に継がせるときには無借金経営にしておきたい」という表現の仕方で、先代経営者から事業承継のタイミングの目安を教えて頂きました。これも最近の経営環境では、無借金経営など望むべくもないため、後継者への事業承継のタイミングを逸してしまう原因になっているのでしょう。
いずれのケースからも企業の魅力にとって、まずは「経済的な」面から評価される資産が重要であることがうかがい知れます。
一方、後継者世代に当たる最近の若者は仕事観として、金銭的な対価ではなく非金銭的な対価に価値を見出すと言われています。
非金銭的対価は、地域から尊敬される企業で働くことで地域に貢献できるというやりがいや、人が集まってチームワークを発揮する仕事で自らの価値が高まることに価値を見出すといういわゆる無形資産で表されます。
そうだとすると、これからの時代は「経済的な」面からだけではなく、企業の魅力にとって「精神的な」面から評価される資産も不可欠になることを経営者は理解する必要があります。
残業代の未払いが常態化して働く人のロイヤリティが下がっていたり、グレーな節税ばかり行って地域の尊敬を集められなかったり、チームワークを重視せず生産性の低い仕事の進め方を頑なに続けていたりということだと、精神的価値を感じられるような社風やチームワークといった無形資産が醸成されるはずもなく、後継者が魅力的に思う資産は形成されません。
残念ながら実際は、大部分の中小企業が「経済的」、「精神的」双方の資産の蓄積とも思いどおりにできていません。これが、後継者不足に陥っている原因なのです。