なぜ127万社も「後継者不足」に陥ったのか?
■事業承継のリアルから見えてきた「継がせる側の問題」
赤字体質が廃業の原因でないとすると、なぜこのような後継者不足による大廃業時代を迎える事態となってしまったのでしょうか?
私がアドバイスする企業でみる限り、中小企業の経営者の仕事は金銭的報酬、つまり「経済的な報酬・待遇」と非金銭的報酬の面での「精神的なやりがい」の両面で見ても、そこまで捨てたものではないと思います。というよりむしろ恵まれていることが多いと感じます。したがって、後継者不足の問題はそれらでは説明できないような、構造的な根深い問題があるに違いありません。
なにせ127万社もありますので、何か一つだけの理由で説明できるようなことではありません。しかし、日々中小企業経営者と向き合っている中で、事業承継ができないと考える様々な要素があるとわかってきました。
事業承継をせず(できず)、廃業を予定している企業は以下のいずれかの仮説に当てはまると私は考えています。
①仕事観として後継者側に経営者になりたがる人が減っている。
②経営者やその配偶者が家業を継がせることを子供や親族に求めなかった。
③経営者が「後継者がいない・後継者に能力がない」ことを理由に自らの代で廃業を予定している。
④経営者が「継がせるだけの価値がない、事業の先行きが不安がある」ことを理由に自らの代で廃業を予定している。
⑤後継者が継ぎたいと思える魅力(価値)が企業にない。
①については日本人がリスクを取らなくなっているとか、しんどい仕事より割のよい仕事が好まれる仕事観が主流になっている影響があります。特に父親がしんどそうにしている姿を見ると子供は後継者となることを敬遠しがちです。確かにこうしたことは、一定割合あると思いますが、そこまで大きな潮流とは思えません。
②もよくあります。経営者の奥さんが旦那さんのしんどそうにしている姿を見てあえて子供に継がないで別の道を歩むことを勧めるという姿はよく見ます。私はこれに関しては問題視しており、経営者夫婦には、ご子息が継ぐことも選択肢に入れるようアドバイスをしています。
③については情報の不足による事業承継への取組み不足です。このままよいアドバイザーに巡り会えなければそのまま廃業になることでしょう。
④については現状の中小企業の環境を見れば事業の先行きに不安があることは仕方ありません。しかし、継がせる価値がないという現状認識には疑問符がつきます。
特に問題なのは⑤のケースです。実際、株式会社ニッセイ基礎研究所が後継者候補側の子供の方々に対して行った「就業意識調査」(2004年)によると、親の事業を承継したくない理由は、
1位 親の事業に将来性・魅力がないから…45.8%
2位 自分には経営していく能力・資質がないから…36.0%
3位 今の仕事が好きだから…16.9%
4位 今の収入を維持できないから…13.9%
(複数回答可)
という結果となっています。私が立てた仮説とほぼ合致しています。
2位の能力・資質が無いという点は、経営者の親とのコミュニケーション不足や謙虚な現代の若者の仕事観として理解できますし、3位の今の仕事が好きだから、は経営者の親から家業を継ぐことを進められたうえでの判断か気になりますが、いずれにしてもとても幸せなことだと思います。
問題は1位の「事業に将来性・魅力がないから」と4位の「今の収入を維持できないから」というところです。ここから見えてくる大廃業問題の構造的な根深い問題は、継がせる側の問題です。つまり「会社に魅力がない」ということです。