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妻に「自宅の土地・建物」を相続させようとしたが…
今回は、遺言書のちょっとしたミスで不動産価値が一気に下がってしまう危険性について、事例を交えて解説していきたいと思います。事例内容をそのままお話しすることはできませんので多少脚色してフィクションにしていますが、事件に対する考え方は変わりません。自分自身の相続を控えている方は注意しながら読んでいただければと思います。
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<事例>
被相続人の自宅の土地と建物を妻Aさんに相続させる内容の自筆の遺言書がありました。自宅の土地の建物は、登記簿謄本どおりきちんと地番や家屋番号の記載もあり、物件の特定も支障ありません。しかし、問題はここからです。この自宅はいわゆる旗竿地に建っていて、私道を介して前面の道路と通行できる状態でしたが、遺言書には私道部分の記載がありませんでした。また、被相続人には離婚歴があり、前妻との間にはBさんという子どもがいたのです。
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旗竿地というのは、文字通り「旗」のような形をした土地のことです(図表参照)。細い道路があって、その奥まったところに建物の建つ土地があります。お子さまランチにつく旗をイメージするとわかりやすいと思います。
本事例の遺言書には、土地と建物については登記簿謄本のとおりに記載されていましたが、旗竿地の“竿”にあたる私道部分の記載が漏れていました。
また、亡くなった被相続人には離婚歴があり、前妻との間に子どもがいるというちょっと嫌な予感のする状況でした。
私道部分を相続できないと「資産価値が激減」
まず、私道部分については遺言書に記載がありませんので、妻Aさんがそのままストレートに相続することはできません。しかし、妻Aさんがその私道を相続できないとどうなるのでしょうか?
建築基準法により、“建物を建てるときはその土地が幅員4m以上の道路に2m以上接していないといけない”という接道義務が課されており、接道義務を満たしていない物件は再建築不可物件となります。
道路に接していない土地は基本的には新しく建物を建てることはできず、資産価値がガクンと下がってしまいます。
旗竿地は私道部分を通して前面の道路に接しているわけですので、私道がないといわゆる「死に地」になってしまいます。今すでに建っている建物は問題ありませんが、その後、たとえば建物を建て替えようとしても再建築ができない状況に陥ります。その不動産を売ろうとしても買手探しは非常に困難を極めます。現状の建物にそのまま住むのであればともかく、建て替えができない土地を誰が買うのか? というお話ですよね。こうした事情から、私道を相続できないと再建築不可の土地となり、価値が激減する可能性もあるのです。
妻Aさんが私道部分を相続する方法とは?
では、妻Aさんが私道部分を相続する方法はないのでしょうか?
遺言書で私道の取得者が定められていないため、妻Aさんは、原則どおり他の相続人と遺産分割協議を行わなければいけません。本事例の場合は、前妻の子どもBさんと遺産分割協議をして、「私道部分を妻Aのものにする」という合意に至らなければならないということです。
ただし一般的に考えて、離婚歴がある方の“前妻の子ども”と“後妻”の関係が良好であることはあまりありません。ほとんど面識がなかったり、離婚の仕方によっては険悪になっていたりもします。
たとえばAさんが原因で離婚に至ったとすれば、前妻の子どもにとってAさんはとんでもない存在です。こうした場合、遺産分割協議が困難を極めるというのは容易に想像がつくかと思います。通常の話し合いで遺産分割協議がまとまればよいのですが、まとまらなければ裁判所で遺産分割調停へ…という事態にもなってきますし、手間暇かかります。できれば話し合いで収めたいと考えるものでしょう。
私道そのものの資産価値は全然ありませんが、私道なしでは奥にある土地の価値が大きく下がってしまいます。ですので、話し合いだけではBさんが納得してくれない場合、私道の価値だけを算出して、その半分の金銭を払って「ハンコを押してよ」という単純な方法では収まらないかと思います。私道の分に加えて、いわゆる「ハンコ代」のような形で割と高額なお金を渡さないといけない場合も考えられます。
被相続人が書くべきだった「遺言書の内容」
被相続人はどのような遺言書を書いておけば、こうした問題を避けられたのでしょうか? この事例においては後の祭りになってしまいますが、これから相続を控えている方へのアドバイスとして解説したいと思います。
結論としては、そのまま「私道部分の記載が漏れないように書くこと」です。私道の部分にも地番があるので、自宅の土地・建物と同じように登記簿謄本を取って、それらを含めて「妻Aに相続させる」と書いておくことが一番です。これらを明記することで「亡くなった方の不動産がどこにあるのかわからない」という事態も防ぐことができます。
しかし私道などを把握していない場合も多く、素人の方では本事例のように記載漏れが生じる可能性もあります。そこで、漏れをなくすために「遺言者名義の不動産をすべて妻Aに相続させる」など、ある程度包括的に書いておくというのも一つの方法です。
もしくはその間を取った方法もあります。今回の事例では自宅の地番、自宅建物の家屋番号などをきちんと書いていたので、「その他、被相続人名義の不動産の一切を妻Aに相続させる」という文言を加えておくのも良いですね。この文言により、もし明記できていない不動産があっても結果的に記載漏れを防ぐことが可能です。特定の誰かにすべての不動産を相続させたいと考える場合は、このような記載をしておくと良いかと思います。
遺言書作成は専門家の力を借りたほうが安心
以上が、本事例の問題点と同様のトラブルを防ぐ方法の解説です。ここからはプロの意見として本事例の総括をしたいと思います。
やはり、遺言書を作成する場合は必ずプロが関与する方法を取られたほうが良いかと思います。
筆者は司法書士として報酬をいただいて作成をお手伝いしていますが、これはポジショントークというわけではありません。事務所ごとの差はありますが、遺言書作成だけであれば金額はそれほどかからないですし、本事例のようなトラブルが起こればもっと損害が生じることになります。
全財産を特定の誰かに相続させるというシンプルな内容であれば別段問題はないかもしれませんが、遺言書は、要件が1つ漏れただけでもまったく使い物にならなくなることが珍しくありません。実際、筆者もこの仕事をする中で、持参された自筆の遺言書を見てみると「これはちょっと…」と思うことが本当に多いのです。
こうしたことからも、遺言書を作成される場合は専門家に一度目を通してもらうことをおすすめします。
そもそも遺言書は後々の問題をなくすために作成するものです。プロのチェックを受けるほか、遺言書作成の支援を受けるという手も検討してみてはいかがでしょうか。
【動画/不動産の価値が激減する!?遺言書のちょっとしたミスで大変なことになります】
佐伯知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
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